日々言葉について思考を巡らせている書画家・夏生嵐彩の連載「言葉の森」。日本語の新しい側面を発見しながら、一緒に探険してみましょう。今回は、「儚い」という言葉の語源や意味を深掘り。
「儚い」を表す言葉
こんにちは。
皆さんはオリンピックをご覧になっていましたか? 私はこういう催しが大好きなのでたくさん見ていました。
でもお祭りごとって終わってしまうと少し寂しい気持ちというか、盛り上がった分だけ儚さを感じてしまったりもします。
ということで今日は「儚さ」をあらわす言葉をみなさんにご紹介したいと思います。
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「儚さ」をあらわす言葉
「儚さ」を別の言葉で表すと、どんな日本語があるでしょうか?
石の火…火打ち石をこすって出す火のこと。転じて瞬間的なものや儚いもののたとえ。
夕電(せきでん)…夕方のいなびかり。また消えやすくて儚いこと。
水沫(みなわ)…水のあわ、はかないもののたとえ。
風口の蝋燭(かざぐちのろうそく)…消えやすく、はかないこと。
徒し世(あだしよ)…この世のはかないこと。はかない世。
言葉の露…言葉が美しいこと。また儚いことを露にたとえていう語。
火や水など、自然のものの一瞬の光やすぐに消えてしまう沫などを使って、儚さをあらわす語が出てきますね。
いかにも日本人の自然観が反映されていて、文化的で日本語らしい美しい言葉だなと感じます。
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「儚い(はかない)」の語源
「儚い」の語構成は「はか+なし(無し)」で、「はか」は「はかる(計・量)」と同源のようです。
「はか」=一定の量や単位をあらわすもの。そこから「目当て・よりどころ」を示すようになったわけです。
つまり「はかなし」はその「はか」がないので、頼りどころがない、むなしいという意味になりました。
「儚」の字源
「儚い(はかない)」という言葉は日本に古くからありましたが、漢字が当てられたのは時代が下ってからです。
現在「はかない」は「果敢ない」「儚い」と書きます。
見慣れませんが「果敢ない」の漢字の由来はなんでしょう?
果敢=決断力をもって思い切って行動することですから、それが「ない」ので、「はっきりしない・実現しない」→すぐに消えてしまうむなしいものの「はかない」に当てたということです。
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本来の「儚い」の意味は?
では「儚い」の字の方はどうでしょう。
実は字源事典で調べても「儚」の字や情報が出てこず、新しい字で秦の時代より後に出来たのかなと思いましたが、調べてもなかなか見つかりませんでした。
そこで「人+夢=はかない」の構成を見て、さては国字だな?と思ったのですがそれは違うようで、大陸から来たことは間違いないようです。
ということで古代の文字(甲骨文や篆書)などからの成り立ちはわからないのですが、漢字辞典によると、中国では「儚」の字が「ボウ・モウ」と読み「暗い人、愚かなぼんやりした人」をあらわしていたようです。
夢には「暗い・よく見えない」という意味があるのでそれに「人」が付くと「暗い人、ぼんやりした人、愚かな人」という意味には納得です。
「儚」の漢字を使った熟語に「儚儚(ぼうぼう)」という言葉があるのですが「ぼんやりするさま、頭が鈍いさま」をあらわします。
中国語の元の意味はネガティブな意味の「儚」の字なのですが、それを転じて現在の「はかない」の言葉に「儚い」と当て字をしたんですね。
儚のきれいな書き方
最後に、書き方です。あまり書く機会はないかもしれませんが…(笑)。でも「夢」は書く機会たくさんありますよね! きれいに書くポイントを押さえていきましょう!
1. 草かんむりのたて線の間隔は広めにとる。
2. 「目」の間隔は均等に。
3. ワかんむりの幅が字の中で一番長くなるつもりで
4. 「夕」は平行にはらう。長さの違いをしっかり出す。
それでは、また!
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