“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る = 自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。今回は、マインドフルに生きるために“イシキ的に”したいことについて。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.13】
「考えすぎていませんか?」
引き算の人生を
先日禅寺にて瞑想体験をしてきました。そこで感じた、目から鱗だったことがあります。
わたしたちは誰もがあまりにも持ちすぎていること。
それなのにまだ足し算で生きていること。
肩書、能力、名声、人脈、お金、健康…。わたしたちはすでにたくさん持っている。のにもかかわらず、まだ足すことばかり考えています。「あれもない、これもない」、もしくは「あの人にはあるのに、私にはない」と。だからいつもなにかを欲しているんですね。“あるもの”ではなく、“ないもの”にばかり、目を向けている。
じゃあ一旦、“あるもの”に目を向けてみます。
なんとまあ、たくさん持っていることか。健康、お金、人脈…人それぞれですが、程度の差はあれ、持っているものはたくさんあるはず。
そしてすでに持っているものを、いったん全部引いてみると?
残るのは生まれたときの呼吸だけ。
わたしたちは皆、呼吸だけをもって生まれ、呼吸を置いて何も持たずに死んでいく。そこを基準に考えると、わたしたちがあまりにも持ちすぎなことに、改めて気づかされました。
意識的な呼吸とは
さて、そんな、生きていくための基本となる”呼吸”。瞑想やマインドフルネスは、この”呼吸”をとても大事にしています。
意識的な呼吸がわたしたちの体を調(ととの)え、心を調(ととの)えてくれるからです。「心をととのえる」のは難しい。けれど、呼吸なら分かりやすい、というわけです。
ただ”意識的な”というところがミソ。
わたしたちは日ごろ、”無意識に”呼吸しています。生まれてから死ぬまで絶え間なくずっとしているものだからです。その呼吸を意識的に行うだけで、さまざまな効果が示されています。吸うよりも”吐く息”を意識的に、長く深ーくするのが、ポイントです。
マインドフルに生きる
最近話題のマインドフルネス。大企業が次々に取り入れたことでも有名になりました。マインドフルネスは日本語でいうと「気づき」。漢字で表すと「念」。念という漢字を見てみると、”今”と”心”という字を合わせたものですね。だからマインドフルネスとは、「今の心に気づく、いまこの瞬間(いまここ)にイシキを向け、あるがままを観て受け入れること」。
こう見ると難しいですが、まずは呼吸にイシキを向けるだけでもマインドフルな状態になりますから、やっぱり瞑想はおススメです。
でも「いまここ」を意識でき、マインドフルな状態になれるのは、瞑想だけではありません。前ご紹介したセーバリング(味わう)では、いま口に含んでいる食べ物や飲み物を、深く味わうことをお伝えしました。またセルフコンパッションでは、「じぶんへの思いやり」を持つための大切な要素の1つがマインドフルネスであることもお伝えしました。
そのほか心理学のある研究では、散歩、料理、読書など、何であっても、「1日20分、じぶんが没頭でき、そのためだけに時間を使うこと(ダウンタイムと言います)」が、ウェルビーイングな生き方のカギになる、と示されています。
マインドフルネスはウェルビーイングな生き方につながる
日ごろから折に触れてマインドフルをイシキすると、生き方や考え方も変わっていきます。ストレスやうつ病、不安が減ることも数々の調査が立証しています。
「いまここ」で生きられ、ゆがんだ判断や評価をすることなく、あるがままを受け入れられる、まさにウェルビーイングのことですね。マインドフルネスはそんなウェルビーイングな生き方や人生観を叶えてくれる方法です。
ある研究によると、私たちは1日になんと、6万回以上の思考を繰り返すそう。そしてそのうちの8割はネガティブなこと、9割近くは、昨日と同じ内容の繰り返しだそうです。私たちがいかに考えすぎで、同じことをネガティブにぐるぐる思考しつづけているか、よくわかりますね。
そう。私たちは、「過去を後悔し、未来を不安がって」ばかりなんです。「いまここ」やゆっくりした呼吸を意識する。1日20分のダウンタイムでマインドフルな状態を作る。そんなに難しいことじゃなさそう。現代人が陥りがちな”思考の沼”から自由になりましょう。
〈参考文献〉
Hofmann, S. G., Sawyer, A. T., Witt, A. A., & Oh, D. (2010).The effect of mindfulness based therapy on anxiety anddepression: A meta analytic review. Journal of Consultingand Clinical Psychology. 78, 2.169 183.
Rinske A G., Paula C., Jan J V B., Herbert B., Gregory L F, M G Myriam Hunink. Standardised mindfulness-based interventions in healthcare: an overview of systematic reviews and meta-analyses of RCTs PLoS One. Apr 16;10(4) 2015.
島田恭子(しまだきょうこ)
医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。東京大学大学院でこころの予防医学を学び、保健学博士となる。(社)ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/