仕事や日常生活で生じる迷いや課題に、より良い答えを見つけるためには、まず「自分を知る」ことが大事。保健学博士の島田恭子さんが「自分を知ること」=「自分のトリセツ」の作り方をナビゲート。今回は「自分に優しくすること」についての考察。【連載「自分学 わたしのトリセツ」】
vol.8「自分に思いやり、もってますか?」
突然ですが、質問です。
もしあなたの親友が、何かに失敗して落ち込んでいたら、なんと声をかけますか?
「大丈夫だよ」
「誰にだって失敗はある。また次に進めばいいよ」
…もしくは黙って寄り添って、心のなかで励ましの言葉をかける?
少なくとも、「自業自得」だと失敗を責めたり、怠慢や努力不足だと非難したりしないはず。
でもその相手が自分だったら?
そんなふうに優しく接することができるでしょうか?
そう。私たちは、自分自身にとても厳しいんです。周りの人にはこんなに優しいのに…。
それは、私たちの心には、“自己批判”という厄介者が、いるからなんです。
「悪いことは自分のせい、良いことは相手のおかげ」
と、自分に厳しめの、妙な“過小評価・過大評価”をしがちであることもわかっています。
今回はそんな厄介者から解放される魔法をご紹介。その名も「セルフ・コンパッション」です。
セルフ・コンパッション 3つの魔法
セルフ・コンパッションは、直訳すると“自分への思いやり”。創始者であるクリスティン・ネフ博士は、“自分を思いやること、みんなとつながること、マインドフルに存在すること”の3つが、つらいときを支えてくれる魔法になることを示しています。
- 大切な誰かに優しくするのと同じくらい、自分自身のミスや不完全さを受け入れ、励ましてあげること。
- 人間誰しも、どんな偉い人も、かならずどこかでか失敗や間違い、困難に遭遇する。だから自分だけじゃない。決して私だけじゃない、だから独りぼっちじゃない、と思うこと。
- ネガティブな気持ちを誇張することなく、ありのままに意識し、客観的にとらえる力をつけること。
の3つです。
以前、仕事でミスが続き、落ち込むA子さん(30代女性)とセルフ・コンパッションをしたことがあります。最初は「なんで私はいつも失敗するの?」「他の人はこんなミスはしないのに」「私はだめだ」と繰り返しご自分を責めていました。
セッションを通じてA子さんは、自分に優しい言葉を繰り返しました。「私も人間だからミスはあって当然。次は気をつけよう」と。続けているうちに次第に“自分だけが失敗するわけではない”と気付き、自分の感情に適度な距離を持つことを覚えました。心のなかで自分への批判が始まったらすぐに、「これは自己批判だ」とラベルを付け、そのまま受け入れられるようになりました。
こうしてA子さんは少しずつ、自分を優しく受け入れ、自己理解を深め、自分にとって真に大切な価値観に気付いていくことができました。
覚えておきたい、セルフ・コンパッション実践法
ネフ博士らは、様々なセルフ・コンパッションの実践法を紹介しています。
たとえば自分への批判に気付いたら、優しい言葉に置き換えるくせをつけるための「自己対話」。瞑想しながら自分自身と他人へ、優しい言葉を唱える「慈悲の瞑想」。自分の手をつかって全身へ、温かな心地よさを広げていく「スージングタッチ」などなど…。
多くの研究において、セルフ・コンパッションを高めることで、私たちの心身の健康やレジリエンス、自己肯定感が高まり、ウェルビーイングにつながることが、示されています。
もし次に、自分にダメ出ししそうになったとき。
親友や愛しい誰かにするのと同じように、優しく声をかけてみてください。
自分の手で自分を抱きしめ、こころから慈しみ、「よくやったね」と、ねぎらってあげてくださいね。
〈参考文献〉
『The mindful self-compassion workbook: A proven way to accept yourself, build inner strength, and thrive マインドフル・セルフ・コンパッションワークブック 自分を受け入れ、しなやかに生きるためのガイド』 クリスティン・ネフ、クリストファー・ガーマー 著/星和書店
島田恭子(しまだきょうこ)
医学や心理学のためになる知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。東京大学大学院でこころの予防医学を学び、保健学博士となる。一般社団法人ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/
Instagram @kokorobalance