仕事や日常生活で生じる迷いや課題に、より良い答えを見つけるためには、まず「自分を知る」ことが大事。保健学博士の島田恭子さんが「自分を知ること」=「自分のトリセツ」の作り方をナビゲート。今回は「味わう」についての考察。【連載「自分学 わたしのトリセツ」】
vol.6 味わっていますか?
最近体重が少し減りました。年初目標“味わい深い一年にする”、のおかげかな、と思ってます。
今回のテーマは“味わう”。よく使う言葉ですよね。ポジティブ心理学でもセーバリング(Savoring)= 味わう、は大事なキーワードです。
セーバリングとは、心地よいことやポジティブな経験をじっくり反すうし、楽しむことで、そのことを深く長く感じていられる感覚です。この連載で、ウェルビーイングを「自分なりの心地よさでいること」と説明してきましたが、まさに心地よさをより深く感じること。セーバリングは、ウェルビーイングに欠かせない感覚といえるでしょう。忙しい現代に生きる私たち。実は“味わう”ということを、きちんと実感できていないかもしれません。ということで、わかりやすい例でセーバリングを体験してみましょう!
必要なのはほんの10分の時間と、身近な食べ物(みかん1房、レーズン2・3粒、チーズ1かけら、など少量で)です。たとえばみかん。皮をむいて房取り出します。柑橘系の爽やな香り。黄色い三日月の可愛い形。みずみずしい触感…。それらを丁寧に感じとった後、ゆっくりと口に含んでみましょう。唇に触れる、鼻に抜ける香り、舌触り、甘酸っぱさ、コク、余韻…。たっぷりと時間をかけてそれらをじっくりと感じてみましょう。さらにこの素晴らしい大地の恵みに、感謝できたら最高です。
セーバリングで上質な毎日を
セーバリングは食べ物だけにとどまりません。親しい人との大切な触れ合い、そこから生まれる心地よいひとときを、ありがたいものとして深く味わうこと。好きなこと、楽しいことや五感に心地よいものを、しみじみと味わうこと。惰性でやり過ごしていたときと比べ、慈しみや感謝が生まれてきます。セーバリングによって、心が健やかになり、絆が深まり、自分自身を大事にできることがわかっています。
私自身、セーバリングを意識するようになって、お酒や食べ物の量が減り、味わう質は上がって、より「美味しい」と感じるようになりました。美味しいお酒を、かけがえのない時間を、好きな仲間と味わいたい。惰性で飲んでいたらもったいない。大事な人生を、深く味わうために…。
忙しさにかまけ、気付けば食べ物も飲み物も人付き合いも、ついつい惰性になりがち。そして体重増という悪循環…。地球の恵みや、かけがえのない人と分かち合える時間が目の前にあるのですから、セーバリングの効用を知り、口に入れるものや出会いの奇跡を、ありがたく、慈しみ、味わって、過ごしていきたいものですね。
引用文献
Bryant & Veroff. (2007) Savoring: A new model of positive experience. Lawrence Erlbaum Associates Publishers.
Bryant, Chadwick, Kluwe. (2011) Understanding the Processes that Regulate Positive Emotional Experience: Unsolved Problems and Future Directions for Theory and Research on Savoring DOI: 10.5502/ijw.v1i1.18
島田恭子(しまだきょうこ)
医学や心理学のためになる知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。東京大学大学院でこころの予防医学を学び、保健学博士となる。一般社団法人ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/
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