日々言葉について思考を巡らせている書画家・夏生嵐彩の連載「言葉の森」。日本語の新しい側面を発見しながら、一緒に探険してみましょう。今回は、意外と読めない漢字について。
難読漢字の夏野菜たち
8月も後半に差し掛かりましたが連日めちゃくちゃ暑いですね~。
私は夏バテ気味で毎日夏野菜ばかりかじって過ごしています。そこで今回は面白い夏野菜の漢字を紹介したいと思います。
早速ですが、問題です。次の野菜はなんと読むでしょう?
1. 甘唐辛子
2. 蕃茄
3. 玉蜀黍
読み方が分かりそうで分からないものばかりですよね! 正解こちらです!
1. 甘唐辛子…ピーマン
2. 蕃茄…トマト
3. 玉蜀黍…トウモロコシ
普段カタカナで書いているものしか見たことがないので漢字を見ると新鮮ですよね! 私もお店でトウモロコシの漢字「玉蜀黍」を見たときはちょっとした衝撃がありましたが、よく考えると確かに!って思うものも多いので詳しく語源や由来、意味を解説しましょう。
▼冬野菜の意外な関係もチェック!
ピーマン【甘唐辛子・青椒】
中国では「青椒」と書いてピーマンを表します。チンジャオロースーのチンジャオはピーマンのことなんですね! 日本語・漢字では「甘唐辛子」と表記するようです。
甘唐辛子をピーマン、とは知っていないと読み方はわからないですよね。
そして唐辛子ほどは辛くないけれど、甘いかな…? 苦唐辛子と書いてくれたらわかるのにって思いませんか? 同じ茄子科のトウガラシ族なら、甘いのはパプリカでは? 漢字の意味や由来を考えれば考えるほど、その奥深さを感じます。
ちなみにパプリカを漢字で書くと、「黄青椒」と書くようです。
黄色いピーマンと考えると…確かにパプリカの代表的な色は黄色かもしれませんね。
トマト【蕃茄・唐柿・小金瓜・赤茄子・珊瑚樹茄子】
トマトも茄子科なので赤茄子。珊瑚樹茄子はすごくしっくりきますよね。
またイタリアで太陽の光を受けた「黄金のりんご」と呼ばれることからも「小金瓜」という字もイメージにぴったりですよね。
唐柿は古くからの和名のようです。その名前の由来や語源に調べがつかなかったので私の予想ですが、外来のもので柿のような見た目からつけられたのでしょうね。
そして問題に出した「蕃茄」。これは中国の表記でもあります。
蕃には「未開の異民族」の意味があります。トマトも舶来したものですから、唐柿と同じ発想でつけられたものですね。トウガラシも「蕃椒」と書くので、「赤い」という意味もあるのかな?と思って調べてみましたがどうやらそれはなさそうでした。
トウモロコシ【玉蜀黍・南蛮黍】
さて、最後は記事のタイトルにも出したトウモロコシ。
トウモロコシという名前は、中国から日本に渡来したモロコシ(蜀黍)というイネ科の植物に似ていたことから「唐=外来」の「モロコシ」でトウモロコシとなったとされています。
玉が連なっているモロコシ(イネ)…で玉蜀黍(トウモロコシ)ってイメージにピッタリですよね。
玉蜀黍(トウモロコシ)の“トウ”に、「唐」ではなく、「玉」という漢字が採用されたのも興味深いところ。前述したように、玉のような粒が連なる玉蜀黍(トウモロコシ)の形から連想されたのかな…? など、その由来に想像を巡らせるのも楽しいです。
玉蜀黍(トウモロコシ)自体は、ポルトガルからポルトガル人によって16世紀ごろ、つまり安土桃山時代に日本へ舶来されたようなので、別名「南蛮黍(なんばんきび)」や「唐黍(とうきび)」とも呼ばれています。
ポルトガル人を南蛮人と呼んでいたことや、「外来の黍」と考えると、「南蛮黍(なんばんきび)」や「唐黍(とうきび)」の語源にも納得ですね。
植物だけでなく、外来種のものは大体がカタカナで表記されますが、伝来は結構むかしだったりして漢字が当てられているケースがほとんどです。漢字の方が伝わりやすかった、というのも日本における文字の歴史の面白いところですね。
身近な植物や野菜の漢字の由来や語源をひもとくと、意味や見た目が反映されているものや、当て字にもほどがある!と笑えるものまでたくさんあるので見ていて楽しいです。気になった方はぜひいろんなカタカナ言葉の漢字を調べてみて下さいね!
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上記の漢字を書く機会はあんまりないかも知れないので、今回のテーマ、「野菜」の字の書き方のポイントを見てみましょう!
1. 里は等間隔に! 特に田が小さく土が長くなってしまう人が多いです。
2. マの三角のすき間大切に! つぶしてしまう人続出!
3. 采の初めのはらいは、横線を描くつもりで、かなり横ばいに払います。角度がつきすぎると変なすき間が生まれてしまいます。千や利を書くときにも応用できます。
4. 字の中で一番長い線を強調しましょう。メリハリがついてかっこよくなります。
それではみなさん、暑さに負けないよう夏野菜で体を冷まして、残暑を乗り切りましょう!
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