身の回りには読めそうで読めない漢字や、聞いたことはあっても使いどころのわからない言葉で溢れています。日々言葉について思考を巡らせている書画家・夏生嵐彩の連載「言葉の森」で、日本語の新しい側面を発見しながら、一緒に探険してみましょう。
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あたたかくなってきましたね。桜も続々と咲き始めて、ようやく春を感じられるようになってきました。ところで、桜のことを「夢見草」とも呼ぶのをご存知ですか?
夢のように美しく儚いことからこのような別名がついたようですが、とてもきれいな異名ですよね。
夢という漢字は、「莧」と「夕」を組み合わせた字です。
「莧」は神に仕える巫女が座っている形で、「夕」は夕方の月の形。
古代には夢占いの職があるほど、夢というのは昔の人にとっては特別なものでした。夢は、呪術をおこなう巫女が操作する霊の力で、夜(夕)寝ている時にあらわれるとされていました。だから「莧」と「夕」を合体した形なんですね。
年の瀬には「夢送り」の儀式を行いその一年の悪夢を祓っていたそうです。
古代中国の呪術的な意味での夢も興味深いですが、桜を「夢見草」と名付けた日本のほんわりとした感性もまた気持ちを和ませてくれますよね。和歌などにも桜を「夢見草」と表現する例はたくさんあります。
和歌といえば、花が咲くことを「笑う」と表現することがあります。
少し前の時期になりますが、日本の四季を72等分した七十二侯でも、三月中旬を「桃始笑」と表現しています。
花が咲くことを花が笑うと表現するなんて、すてきだなぁと感じていたのですが、「咲」の字源を調べたら、びっくり!
「咲」はもともと「笑」という漢字だったではありませんか!
「咲」と「笑」の関係
「咲」という字に古い用例はなく、もとの字は「笑」。
「笑」は巫女が両手を上げて舞い踊る形をあらわしていて、神を楽しませるための動作でした。
日本語では、花びらがひらくことを「さく」といいますが、古くは「花開く」「花披く」と表記していました。
咲を「さく」の意味に使うようになったのは、花の開く様子を人の口元がほころびる様子にたとえたからとされています。
花が笑い、人の笑顔が咲くいい季節になりました。
世の中はまだ諸手をあげてはしゃぎまわれる状況ではありませんが、花々のほころびとともに、少しでも明るい兆しが見えることを祈っています。
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「咲」の美文字ポイント
お名前に使われることも多い咲という字。画数が少なくてバランスがとりにくいのですよね…。
美しく書くコツをお伝えします!
1. 口は下半身スッキリに!
2. 关を口よりも上から書く! 離れる勇気が大切よ!
3. 2本の線のすきまをたっぷりとる!
ちょっとは上手に書けたかしら? 試してみてくださいね!
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