5月17日(金)より全国公開される映画『ミッシング』。憧れの女性像としてカリスマ的人気を誇る華やかさを封印し主演を務めるのは、石原さとみさん。そしてもうひとつ別軸の主人公ともいえるキーマンを演じるのは、中村倫也さん。演じた役柄や作品についてインタビューすると、こちらに飛び火するほどの熱き情熱が伝わってきた。
心が揺れる、衝撃の118分
石原さとみ「本当に削られました」
中村倫也「閉塞感に似た苦しさがありました」
そう言葉を選んで、演じた役について振り返るふたり。5月17日(金)より公開される映画『ミッシング』は、愛する幼い娘の失踪事件を機に日常が一変してしまった母親である沙織里とその家族、そしてその家族を追う地方テレビ局の記者・砂田を取り巻くヒューマンドラマだ。この作品の真髄は、突如失踪した幼い娘の事件を解明することではなく、遺された家族のその後を描くこと。好奇と悪意に満ちた世間の目に翻弄される森下夫婦をドキュメンタリー的に繊細に追う。相当な覚悟が必要な作品に出演することを決めたふたりは。
「実は7年前、𠮷田恵輔監督に『一緒にお仕事がしたいです』と直談判をしていたんです。その3年後に脚本をいただいて。𠮷田作品をすべて観ているからこそ、これまでだったらこの役は絶対に私にオファーいただけないだろうなと思うほどの役だったことが何よりも嬉しかったですし、𠮷田組に加われることが夢のようでした。7年前に自分から動いたことがこうして現実になって、今も含めて不思議な感覚。あのとき動いて良かったと心の底から思います」(石原さん)
「僕は𠮷田監督とさとみちゃんがタッグを組むと聞いたので、すぐに『やります!』と言いました。さとみちゃんとは18歳の時に共演して以来ご一緒できていなくて。ずっと一緒にやりたいなって思っていたので即決しました。ついに実現しました!」(中村さん)
石原さとみ「沙織里の気持ちが痛いほどわかって苦しくなることも」
石原さんは産後復帰がこの作品となった。子供を出産したばかりの石原さんが、娘を失った母親・森下沙織里を演じるのはどんなに辛く苦しい心境だったか想像に難くない。石原さんは失われた日常に憔悴した母親を演じるために、わざと添加物の多い食事を摂って体をゆるませ、髪をボディソープで洗ってくたびれた容姿に近づけたという。
「沙織里という役には削られまくりました(笑)。子供が産まれてから初めて、子供と会えない時間ができたのがこの作品だったんです。自分自身、撮影で子供と離れたときに、沙織里の苦しさが安易に想像できてしまうから怖くなることも多々ありました。だから家に帰ると子供をしっかりと抱きしめて(笑)、心を保っていました。
作中では青木崇高さん演じる夫の豊と何度も言い合いになり、森下夫婦ともども疲弊していくんですが、事件前は明るくて良い家庭だったと思うんですよ。沙織里だって、子供がちょっとくらいの擦り傷を作っても『それぐらいなら大丈夫!』って言うような普通の母親で。娘がいなくなった日に沙織里はたまたま好きなアーティストのライヴに行っていたんですが、そのことが世間の誹謗中傷の的になるんですね。でもきっと豊が『いつも頑張ってるんだからたまには行って来なよ』って送り出してくれたと思うんです。演じてみて、たったひとつの事件から、人間って壊れていくんだなと思いました。だから沙織里に限らず誰しもがそうなる可能性はありますよね」(石原さん)
中村倫也「仕事に葛藤するけれど、彼自身の生き方にも通じている」
地方テレビ局の記者、砂田役を演じたのは中村さん。世間が関心をなくしてもなお森下夫婦に密着し取材し続ける砂田に、上層部から視聴率のために煽るような映像を撮るように命じられる。自身の動きでこの事件の印象操作が成し得てしまうかもしれない、そんな葛藤と揺らぎを表現する難役をリアルに丁寧に演じた。
「砂田という役は、芝居をしながら心苦しい気持ちになることが多かったです。砂田の真ん中にある支柱には、邪な気持ちや妬ましい気持ち、淀みがあって。そういうものを常に内包しながら、口では『おめでとう』『大丈夫ですよ』って言うんですね。それは、森下夫婦に対してもそうだし、自分より仕事ができる後輩に対してもそう。人間っていろんなものが介在している生き物なんだろうなと思うんですが、それを表に出せない人間だからこそ、演じていて閉塞感に似た苦しさもありました。
砂田は社会で働く人の多くが共感してくれるポイントがあると思います。彼なりの信念や目標があるけれど、それだけじゃ太刀打ちできなかったり違うものを求められたりして、組織のなかにいる人間としては従わざるを得ない。けれど如何ともし難い、情けないという思いを抱いていて。沙織里ら家族と出会って向き合うことで、彼のなかに芽生えたものはきっとあるんじゃないかなと思いました。それは傍から見たら一歩にも満ちていないかもしれないけど、心の変化としては一歩以上踏み出した気がするんですよね」(中村さん)
経験を重ねた今、お互いについて…
映画『空白』(2021)や『ヒメアノ〜ル』(2016)ほか、常に観る人に衝撃を与え想像力を刺激する作品を世に送り出す𠮷田監督。そんな𠮷田監督に惚れ込み、出演することを切望していた石原さんは、𠮷田組の撮影を振り返る。
「現場はすごく平和なんですよ。優しくてあったかくて。だからこそ苦しい役だったけど、自分の心を保てていたんだと思います。スタッフさんお一人お一人の目が優しくて、受け止めてくれる感じがしていました。感覚的には、𠮷田組が作り上げるあったか〜い家に、新人(自分を指して)が入ってきた、って感じですね。あと、すっごくありがたかったことが、スチールのカメラマンさんが撮影後半くらいのときにアルバムをくれたんです。そこには娘の美羽ちゃん(有田麗未)の写真もあったんですよ。それがもう苦しすぎて、現場の移動中はずっとそれを見て、想いを募らせていました」(石原さん)
ここからは、生年月日が全く同じという奇跡のコンビが、19年ぶりの共演で新たに知ったことについてクロストーク!
中村 さとみちゃんは本当にすさまじかったです。地獄に1回行って帰ってきた人みたいな炎の温度でした。目の荒いやすりで自分をこすってましたね(笑)。
石原 (笑)。𠮷田監督は多分中村さんみたいな俳優が好きなんだと思います。役者さんを二分割したときに中村さんはそっち側に入るタイプな感じがする。だから𠮷田組にまた呼ばれるんだろうなって羨ましさがある(笑)。
中村 そうかな? クランクアップのときに「またご一緒したいです」なんて言われてないけどな(笑)。今回の共演で新たに知ったのは、さとみちゃんがすごくいろんな作品を観ていること! 僕が出ている作品名を出すと「あ〜あれね!」って反応してくれる。
石原 なんか気になるから観てる! 本作では、こういう中村さんが観たかったって思いました。
中村 ありがたいですね。良いことを言ってくれる主演です(笑)。
失った先にあるもの――それは光か闇か
あるのかも分からない希望を信じ続けようと立ち向かう沙織里と、報道人として最善を掴むことができないまま事件を追うことをやめられない砂田。ふたりはこの熱量を劇場で体感してほしいと口を揃える。
「私は大袈裟ではなく命懸けでやったので、ぜひ観てほしいですね。観る前と後で、確実に大きな変化があると思います。揺さぶられる。心の揺れをとことん、余韻も含めて楽しんでもらえたらいいかな」(石原さん)
「一足先に試写で観た方からめちゃくちゃ好評なんですって。それがシンプルで分かりやすいんじゃないかな。観た方が『本当に面白かった』『良かった 』って言ってくれる。だから安心してこの世界観を体感しに来てもらえたらなと思います」(中村さん)
沙織里が取り乱して涙を流すたび、声にならない悲痛な叫びをあげるたび、心に深く刺さるものがある。砂田が葛藤する心模様が痛いほど伝わり、顔を伏せたくなる。スクリーンの向こうに映るのは、ひとつの事件によって人生が変わった人々が光をたぐり寄せようとする物語だ。ぜひその哀しくも強く前へ進もうとする勇姿を目に焼き付けてきてほしい。
映画『ミッシング』
出演/石原さとみ、中村倫也、青木崇高、森優作、小野花梨、細川岳、ほか
監督・脚本/𠮷田恵輔
音楽/世武裕子
配給/ワーナー・ブラザース映画
wwws.warnerbros.co.jp/missing/
※5月17日(金)より全国公開
石原さとみ(いしはらさとみ)
1986年12月24日生まれ、東京都出身。『わたしのグランパ』でデビューし、第27回日本アカデミー賞ほか6つの映画祭・映画賞にて新人賞を受賞。主な出演作品に『北の零年』、『進撃の巨人』2部作、『シン・ゴジラ』、『忍びの国』、『そして、バトンは渡された』などがある。現在、テレビ朝日にてドラマ「Destiny」が放送中。映画『ラストマイル』が2024年8月23日公開予定。
中村倫也(なかむらともや)
1986年12月24日生まれ、東京都出身。2005年に俳優デビュー。主な出演作品に『水曜日が消えた』、『ハケンアニメ!』、『宇宙人のあいつ』、『沈黙の艦隊』などがある。今後、7月より劇団☆新感線44周年興行・夏秋公演 いのうえ歌舞伎『バサラオ』の上演、8月より主演ドラマ『Shrink-精神科医ヨワイ-』(NHK総合・NHK BSプレミアム4K)が放送予定。
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