登場人物、全員クズとワル?! 映画『悪い夏』が3月20日(木・祝)より公開。主演を務める北村匠海さん、北村さん演じる佐々木守を翻弄する林野愛美を演じた河合優実さんにインタビュー。【前編】となる今回は、役づくりや撮影時のエピソードを語っていただきました。
破滅へのカウントダウン

最もホットな演劇界のふたり――北村匠海さんと河合優実さんが出演する映画『悪い夏』が3月20日(木・祝)より公開。原作は、「正体」などで知られる染井為人さんのデビュー作で、第37回横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞した傑作小説。「クズとワルしか出てこない」と話題のストーリーが、このたび鮮やかに生々しく映像化。監督は“映画の職人”と異名がつけられる城定秀夫さん、脚本は『ある男』('24)で第46回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞した向井康介さん、と強力なスタッフ陣が製作を手がける。
物語の主人公は、ケースワーカーとして働く佐々木守(北村さん)。同僚の相談を受け、生活保護受給者でシングルマザーの林野愛美(河合さん)の家を訪ねると、思わぬ悪夢に巻き込まれて…。じっとりとうだるような暑さのなかで、地獄に落ちていく模様が描かれるサスペンス・エンターテインメントが開幕する。
手放しでは面白がれない、身近にある恐怖

真面目で気弱な「佐々木守」を演じた北村さんは、今作で華麗な“闇堕ち”を表現するとあって、公開前から注目を集める。
「守は、生活保護の受給を申請する人に一切感情が動かない人物です。とにかく“無気力”なんです。息をしているだけ、というモノクロのなかにいる空気感は大切にしていたかもしれません。愛美と出会うことで、良くも悪くも人生の歯車が動き出すんですが、恋をすることで守の心が色づく、そのコントラストは意識していました」
あることをきっかけに地の果てに堕ちてしまう守は、その前後でまるで雰囲気が違うことに驚愕する。狂気と悲しみに満ちた鉛のように重い感情が痛烈に伝わってくる。
「実はあの独白のシーン、クランクインした次の日に撮ったんです。気持ちとしてはいろんなプロセスを歩んであのシーンを迎えたいと思うものですが、撮影を終えたいま、あのタイミングだったから振り切れたんじゃないかなと。『どこまでやっていいのか』見当がついていない状況で飛び込むことができたので、『いっそ暴れちゃえ!』と思いきりできたから楽しかったんですよね。順番どおり冷静に積み上げていったら、あの爆発力は出せなかったのかもしれません」
河合さんは、育児放棄寸前のシングルマザー・林野愛美について想いを馳せる。
「愛美は若くしてシングルマザーになったから、当然学校にも行けてないだろうし、きっと愛美自身が子どものまま美空(娘)を産んでしまったと思うんです。だから状況を変える気力も意欲もないし、人との関わりを持たず、すごく狭い社会のなかで生きている女性です。そんななかで生きている親子がどうなるかはずっと考えていたことのひとつです」
そんな背景を抱えているからこそ、ゾッとするほど虚ろな瞳に吸い込まれそうになる。八方塞がりな状況のなかに生き続ける“ワケアリ”の人物、河合さんのアプローチ方法とは。
「母親役をここまでガッツリやったのが初めてだったので、どう見えるかはチャレンジでもありました。でも年齢も近いはずですし、私の体を生かしつつ、美空との関係を築くことにフォーカスしました。家とコンビニ、パチンコ屋さんを行き来する生活のなかで、愛美はどういう歩き方になるのか、どんな足クセがあるのか、作り上げていった感覚があります」

全体にわたるテーマとして沈んでいるのが“貧困”。悲惨なシーンも多いけれど、そこに描かれた人間のむき出しの欲望は、不思議と滑稽で愛らしくもある。絶望的な状況下や物語においても「人間そのもの」を肯定的に描くことが徹底されたのだという。
「題材の重たさはもちろん、現実で問題になっているようなこともリンクしています。でも、僕は映画(フィクション)だからこその“良さ”を作品に感じていて。それを肯定的と呼ぶのなら肯定的なのかもしれないですよね。悲劇が足し算的に連鎖していきますし、決してポジティブな内容ではないですが、最後はなんだか笑えてしまう。問題提起をしつつも、それが両立されているのがこの映画のスゴさだと思います」(北村さん)
超大型台風が上陸するなかで主要人物が勢揃いする狂騒のクライマックス。撮影当時を振り返ってふたりは顔を見合わせて笑う。
「新喜劇さながらで『そんなことある?!』って思うくらい(笑)。そこまで積み上げてきたものの足元を掬われるような登場の仕方がすごく面白いんですよね。サスペンスというジャンルではありますが、そこまで力を入れずに観ていただけるといいのかなと思います」(河合さん)
「あの大雨のなか、泥だらけになるシーンは、なんだかチャップリンなどの無声映画につながるところがある気がするんです。当の本人たちはいたって真面目なんですが、ふと俯瞰で見ると笑えてくる。喜劇に変えてしまう空気があります」(北村さん)
「撮影は…しんどかったですよね(笑)。個人的に、あのシーンは自分のなかの過酷ランキングに入りました! よくある『撮影は辛ければ辛いほどカッコいい』みたいな雰囲気はあまり合わないんですが、それでもあの極寒のなか夜を徹した状況では頑張っている自分たちに酔うしかなくなって(笑)。騙し騙し、テンションを上げていかないと乗り切れない一夜でした」(河合さん)
まだまだ続くインタビューの【後編】は近日公開!
『悪い夏』

出演/北村匠海、河合優実、窪田正孝 ほか
監督/城定秀夫
原作/染井為人『悪い夏』(角川文庫/KADOKAWA刊)
配給/クロックワークス
waruinatsumovie.com
※3月20日(木・祝)全国公開!
北村匠海(きたむらたくみ)
1997年11月3日生まれ、東京都出身。2008年『DIVE!!』で映画デビュー。2011年に4人組バンド「DISH//」を結成し、メインボーカルとギターを担当する。『君の膵臓をたべたい』(17)で第41回日本アカデミー賞新人俳優賞をはじめ数々の新人賞を受賞。主な映画出演作に『ディストラクション・ベイビーズ』(16)、『勝手にふるえてろ』(17)、『OVER DRIVE』『春待つ僕ら』(18)、『十二人の死にたい子どもたち』(19)、『思い、思われ、ふり、ふられ』(20)、『東京リベンジャーズ』シリーズ(21,23)、『とんび』(22)、『法廷遊戯』(23)など。2025年2月には企画・脚本も手掛けた初の短編映画監督作品『世界征服やめた』が公開された。
河合優実(かわいゆうみ)
2000年12月19日生まれ、東京都出身。2021年に出演した『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技が高く評価され、各賞の新人賞などを受賞。2023年に『少女は卒業しない』で映画初主演を務める。2024年には主演作『ナミビアの砂漠』が第77回カンヌ国際映画祭国際批評家連盟賞を受賞、同作及び『あんのこと』で第67回ブルーリボン賞、第98回キネマ旬報ベスト・テンなどの主演女優賞を受賞。近年では『ルックバック』(劇場アニメ・24)、『敵』(25)など話題作への出演が続いている。待機作には『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(4月25日公開)、『ルノワール』(6月20日公開)がある。
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