妊娠や出産の経過など、生まれる前からその子の成長を記す母子手帳。田中みな実さんが演技の参考に…と取り寄せて見つけた、母からの一言に感動。【連載「田中みな実のここだけ話」】
今回のテーマ:母子手帳
「母子手帳ある?」と母にメールをすると、「うん、あるよ〜。いつまでに必要?」ってすぐに返事がきた。こんな突飛なお願いをされたら普通は戸惑うものだけど、仕事柄やれ昔の写真を送ってほしいだの、小学生のときにつけていた日記を探しておいてほしいだの、私があれこれ不思議な頼み事をするものだから母はすっかり慣れっこらしい。
数日後、理由も聞かないまま、ひじき煮やきんぴらごぼうなどをタッパーに詰めたお惣菜と共にそっと家のダイニングにそれを置いていってくれた。2月に映画で母親役を演じることが決まっていたから、なんとなくみてみたかった。私は結婚もしていなければ子も授かっていない。経験したことがない何かを体現するには、あらゆる材料が必要だと感じて。実家暮らしだった頃、宅配便の受け取りでハンコを探して引き出しの奥底で何度か見かけたこの薄っぺらな冊子の中身をまじまじ確認したことはなく、生まれたときの自身について刻銘に記されているであろう過去に触れるのは少しばかりの躊躇があった。母の日記をのぞき見るような、背徳感も手伝って。
ところが、内容は思いの外シンプルで事務的だった。健診結果、身長体重、病歴、はい・いいえに〇をつける形式のものも多く、欄外に母が記したコメントがなければ思っていたよりずっと味気ないものだった。『11ヵ月と1日でトコトコ4、5歩、歩く』『1歳4ヵ月で“ジーちゃん”“バーちゃん”“かーしゃん”“とーしゃん”“あったかい”など上手に言えるようになる』5歳のときには幼稚園で縄跳びを猛練習して11分跳べたとも記されていた。ただならぬガッツである(笑)。
『困っているお友達をみると、とんで行って助けてあげるやさしいやさしい女の子です』。ふと目に留まったこの一行に喉元が熱くなり、少し癖のある母の字を暫くの間じっと見つめていた。近頃、自分という人間がよく分からなくなっていてね、30年前に母が書き残した幼き頃の記録に思いがけず救われた。ひとの本質は変わらないはず。ならきっと大丈夫…だよね、お母さん。
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