パートナーとのちょっとした行き違いや喧嘩は、誰にでも起こり得るもの。田中みな実さんのほろ苦い思い出とは…? 【連載「田中みな実のここだけ話」】
今回のテーマ:シフォンケーキじけん
もし、今どなたかとお付き合いができるとしたら、相当寛大で理解ある人でないと10日として持たないと思う。花粉で肌が荒れて落ち込んでいるうえに、ドラマのセリフを覚えられず苛立ち、前髪の内側の生え癖がひどくなってきたことに落胆する、こんな余裕のない私を海よりも広い心で受け止め、突如放たれる理不尽の矢をスマートにかわしてくれる仏のような人、いませんか。いや、そんな人でもダメかもしれない。ずっと前のことだけど、同じように仕事にあくせく奮闘している最中に起きた優しい人との揉め事を思い出し、我ながら馬鹿げていたと呆れてしまう。
私も彼も連日やるべきことが山積みで疲れ切っていたのよね。けど、そんなことを言っていたらいつまでたっても会えないから一旦仕事を忘れて家で会うことにした。彼をもてなそうと「コーヒー飲む?」と聞くと、「いや、大丈夫」とにこやかに返される。「じゃあ、ハーブティーにする?」と提案すると「何でもいいよ」と言う。ならコーヒーでよくないか? コーヒーは飲みたくないが、それ以外のものなら何でもいいということなのか? カフェインが嫌なのか、コーヒーが嫌なのか、よくわからないけど聞く気になれない。気を取り直して京都土産の番茶とお取り寄せしたシフォンケーキをお皿に載せて出したのさ。そうしたら「え〜、シフォンケーキならコーヒーにすればよかった〜」って! 邪気がないのが罪なのよ。しかもね、それに一向に手を付けないのでしびれを切らして「食べないの?」と促すと「いや、フォークがないから…」って!!
怒りがこみ上げ啖呵を切る。「切れないくらいふわふわのシフォンケーキだから手でいった方がよさそうだと思ってそうしたの。ってゆーか、フォークがほしいならすぐ言えばいいじゃん。コーヒー飲みたかった〜っていうのもさ、思ってても言わなくてよくない? 性格悪くない?! なんかもう、思いやりがなさすぎるよ! 最低!!」「昨日だって!」「この前もさ!」ってあれこれ引っ張り出して責め立て、最後は寝室に籠城するといういかにも情緒不安定な態度に彼もお手上げだったわね。
今、近くに大切な人がいなくて本当によかった。私はきっとその人を鋭い刃で傷つける。ほわっほわなシフォンケーキもスパーンと切れるほどの切れ味で。
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