“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.20】
怒っている人は困っている人
みんな何かに怒っている!?
イライラ、ムカムカ…たくさんある私たちのキモチのなかで1、2を争う扱いづらいもの…それはやっぱり「怒り」の感情でしょう。
周りを見回すと、あらゆるところに、イライラや怒りの感情が溢れている今日このごろ。朝の満員電車では、ちょっと体が当たると、にらむ&舌打ちのダブル使い。スーパーやコンビニで、店員さんに怒号を浴びせているお客に出くわします。電車が遅延すると、駅窓口に怒れる人たちがたくさん。駅員さんに食ってかかっています。職場の上司や学校でもパワハラ気味の人もいるでしょう。家の中ではパートナーや子ども、親がいつもイライラしてる…なんて方もいらっしゃるかもしれません。テレビをつけると、何かに憤ったり、言い合いをしている場面に遭遇することもしばしばです。
こうしてみると、みんながみんな、何かに怒っている…そんな気にもなるくらい。
実際、のどかだった昔と違い、情報が増え、便利になった分、イライラの種は増えた気がします。電車で周りを見渡すと、いまやほとんどの人がスマホをのぞき込んでいますよね。たくさんの情報を浴びる日々に慣れてしまって、頭をからっぽにしてぼーーーっとする時間や、心に余裕を持たせてリラックスする隙が、どんどんなくなってきたように思います。
そんな余裕なく、イライラの毎日を送る私たち。「この怒りの感情、何とかならないものか…」と思うときはありませんか。喜怒哀楽が激しめの私も、常々そう思って生きてきました。とくに子どもにガミガミ怒ったあと、しょんぼりと寝付く姿を見て何度となく「感情的に怒ってゴメンね」と手を合わせて謝ったことか。
今回はそんな扱いづらい「怒りの感情」を知って、少しキモチを楽にする方法を考えてみましょう。
最近のイライラ案件は?
みなさんの、最近のイライラ案件を思い出してみましょう。よくありそうなものをあげてみました。
- 急いでいるときに、 店員さんがもたもた…。イラっとする。
- 理不尽な上司。ちょっとしたミスにもすぐ人格否定のような発言をしてきて、怒りしかない。
- 工事の音がうるさくてうるさくて…、状況はわかるんだけどイライラしてしまう。
- 同じように仕事しながら子育てしてるのに、夫はなんか他人事。モヤモヤが止まらない。
こんな感じでしょうか。
そもそもこんなとき、私たちはどうして、怒りを感じてしまうのでしょうか。
実は、怒りやイライラは“二次感情”といわれていて、一次感情の後に、湧き出てくるキモチなのです。その一次感情とは、「私の大切な何かが脅かされた。困った!」というキモチ。
そう。私たちが怒りを感じるとき、かならずその奥には、“お困りごと”があるのです。
私たちの怒りやイライラは、「自分の大切な何かが脅かされて困ったよ~~」という、重要なサインだったんですね。
先ほど挙げた例で、具体的にみてみましょう。
「店員さんがもたもた…」
「上司の人格否定のような発言…」
「工事の音がうるさい…」
「夫に比べて自分ばっかり…」
――こんなシーンのとき、私たちの大事な何が、脅かされて困っているんでしょう。
そう。私たちにとって大事なのは、時間、お金、プライド、尊厳、心地よく平和な時間や空間、公平性、認めてほしい、などなど…いろいろありますね。
- 自分が急いでいるときに店員さんにもたもたされたら、大切な自分の時間が脅かされたと感じ、怒りを覚えるんです。
- 理不尽に怒鳴る上司が、人格否定のような発言をしてきたら、自分の大切な尊厳やプライドが傷つけられたと感じ、怒りを感じます。
- 静かなときを楽しみたいと思っている週末の朝に、大きな音で工事が始まったら、心地よく静かな時間が損なわれて、イライラします。
- 同じように仕事しているのに、自分ばっかり家事や育児の負担が増えたら、公平であるべきなのにそれが叶わず、イラっとします。
私たちは、大事にしている何かを脅かされたら、とても困ります。大事な時間、プライド、心地よさ、公平感。それらが損なわれるから、困り、怒るのです。
つまり、「怒っている人は困っている人」。これが考えられるようになると、自分の怒りも、他人の怒りも、ビックリするほど扱いやすくなります。
まず、自分がイラっとしたときは「私は何に困っているんだろう」と考えてみてください。同じように周りの誰かが怒っているとき、「この人は何に困っているんだろう」と考えてみてください。
とっても急いでいるときに店員さんがもたもたしていたら、「私は今時間がないのに、ゆっくりされて困っている」
同じように仕事しているのに、家事の負担が偏っていると感じたら「私は公平でいたいのに、いますごく不公平な感じがしてて困っている」
そういうことなんですね。
私はこのメカニズムを知ってから、ずいぶんとイライラが減った気がします。怒りを感じるたびに、一旦たちどまって「私は何に困ってる?」と自問自答します。また相手が怒っているとき、「この人は何に困っているんだろう?」と考えます。そうすると、怒りの元にある、大事な何かが見えてきます。
たとえば時間、お金、プライド、心地よさ、公平性。
それがわかればしめたもの。気づいたお困りごとについて、落ち着いて自分と相手に伝えればいいだけ。
「私はいま、〇〇に困っているの。だからイライラしてるのね」と。(言い方・伝え方はぜひ、以前にこの連載でご紹介した“4つのき”を読んでくださいね)
怒りの裏にあるお困りごとを見つけ、そのまま伝える。ただそれだけで、解決にはつながらなくとも、怒りが増幅することはありません。
怒りの感情の厄介なところは、それが相手によって増幅すること。私たちは往々にして、怒りのやり場に困り、怒りに任せてそれを誰かにぶつけようとしますから。その矛先を向けられた相手は、よっぽど穏やかな平和主義者でない限り、戦闘モード、応戦しようとするでしょう。状況は悪化するだけです。
だからといってガマンするのはNG。
残された道は、怒りやイライラを感じても、そのまま相手にぶつけない。そのためのマジックワードが「怒っている人は困っている人」です。
「私は何に困っているの?」「この人は何に困っているの?」 次に怒りを感じたら、ぜひそんな風に考えてみてくださいね。
島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/