“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.19】
ストレスは減らせるか?
この世はストレスであふれています。みなさんも私も例外なく、日々いろいろなストレスを感じて生きているでしょう。私たちが日ごろ何気なく使っているストレスという言葉、実は”ストレスの原因となる刺激”のことを指し、専門的には「ストレッサー」と言います。対人関係で悩んでいるとき「あの人、ほんとストレスなんだけど…」と言う「ストレス」は、正しくは「ストレッサー」のことです。
私たちの心は日々いろいろなストレッサーを受け、抱えきれなくなると、さまざまな悪影響が出てきます。いわゆる「ストレス反応」と呼ばれるものです。不安を感じて(心理的反応)眠れなくなったり、下痢が続いたり、動悸や息切れがしたり(身体的反応)、お酒の量が増えたり(行動的反応)…。薬物依存や精神疾患となることもあります。
ただ、同じくらいストレッサーがあっても、そんなに大きなストレス反応の出ない人もいれば、病気になるほどつらくなる人もいます。実はストレッサーがストレス反応につながるまでには、いろいろな要因が絡んでいることがわかっています。
例えば仕事でいやなこと(ストレッサー)があっても、まわりの仲間と助け合えたら(サポート)、ストレス反応は減ることがわかっています。仕事量が多くても(ストレッサー)、裁量権があって自分でその量をコントロールできたり、給料など見返りが多い人は、ましになることもわかっています。ここでいう、まわりのサポートや裁量権、といったものが、ストレス反応を緩和してくれる「緩衝要因」といわれるもの。これが多い人は、たとえ大きなストレッサーがあっても、ストレス反応を緩和してくれます。ただ、まわりの仲間からのサポートや給料といったものは、自分ではどうすることもできないもの。
実はストレッサーvsストレス反応の関係のなかで、自分自身でどうにかできるものがあります。それが「ストレス対処力」というものです。
ストレス対処力には、いろいろな種類や方法がありますが、対処力の“ひきだし”が多いと、たとえ大きなストレッサーがあっても、ストレス反応を低く保てたり、ウェルビーイングを上げることがわかっています。
意識して心を軽くしていこう
ストレス対処力に関する様々な理論や手法が開発・展開されていますが、ここでは2つをご紹介。
1つ目は「心を重くする考え方を知る」というものです。
下記の表に私たちが、ついやってしまう「心を重くする考え方」を挙げてみました。たとえば完璧思考や一般化のしすぎ、といわれるもの。また過大評価・過小評価も日本人に多い傾向であるといわれています。これらのネガティブな考え方は、強くストレッサーを感じているときに起こりがちであることがわかっています。何か困ったことがあるときや悩みがあるときは誰しも、こんな考え方になりうることを、頭の片隅に入れておくといいでしょう。
このリストの1つだけ、少しでも取り除けそうなものがあれば、それが幸せに近づく第一歩です。
小さな一歩から
2つ目は「小さなことからはじめてみる」のを意識することです。
誰しも大きな挑戦は勇気がいるものですが、日々できるささやかなチャレンジもたくさんあります。1日10キロマラソンするのは難しくても、週に1回、15分のお散歩なら、なんとかなりそう!と思いませんか。
先ほど出てきた完璧思考。実は先延ばし主義と仲良しであることが分かっています。確かに、中途半端が許せず完璧にしようとするからこそ、一歩を踏み出せないキモチ、とってもよく分かります…。だからこそまずは、「小さなことから始めてみる」のが大事。案外ものごとがうまくまわりだしたりするものですよ。
私の最近のおすすめは…「小さなことでも喜んでみること」!
ニーチェだってこんなことを言ってます。
もっと喜ぼう。ちょっといいことがあっただけでも、うんと喜ぼう。喜ぶことは気持ちいいし、体の免疫力だって上がる。恥ずかしがらず、我慢せず、遠慮せず、喜ぼう。笑おう。にこにこしよう。素直な気持ちになって、子どものように喜ぼう。
『ツァラトゥストラはかく語りき』
喜べば、くだらないことを忘れることができる。他人への嫌悪や憎しみも薄くなっていく。周囲の人々も嬉しくなるほどに喜ぼう。
喜ぼう、この人生、もっと喜ぼう。喜び、嬉しがって生きよう。
なんだかことごとくツイてなくて、喜ぶことなんか何ひとつ見つからない…。そんなキモチになるときは、この格言を思い出し、なんとか小さな喜びを見つけ出し、自分で自分のごきげんを取ってます。
一寸先は闇、ではなく、「一寸先は光」(by やなせたかし)と信じて。
参考文献、引用
・Hurrell,J. & McLaney, MA.(1988)Exposure to job stress -A new psychometric instrument. Scandinavian Journal of Work and Environmental Health 14 Supple-1: 27-28.
・超訳 ニーチェの言葉 エッセンシャル版 フリードリッヒ・ニーチェ ディスカヴァー・トゥエンティワン 2015
・高知精神保健 第285号 2024
島田恭子(しまだきょうこ)
予防医学者・保健学博士。医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。(社)ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/