今年で4回目を迎える京都のモダン建築祭。通常非公開の建物の内部が一斉公開される。明治、大正、昭和初期に建てられた名建築の数々。今年は最多の129件が公開。ガイドツアーはほぼ完売だが、事前申し込み不要のパスポートで観るという手がある。(ライター/和多亜希)
早速パスポートで巡りたい!今年初参加の注目の4施設

年々人気が高まるモダン建築祭。9月中に抽選が終了したガイドツアーは高倍率のところも少なくないという。パスポートでの公開建築は全57件あり、そのうち14~15件が今年初公開される。「京都というと近世以前の古い建物を見ることが多いですが、実は今の文化を色濃く映しているのは近代のものが多いのです」(京都モダン建築祭実行委員長 笠原一人先生)。
西洋のアールヌーヴォーやセセッション(分離という意味。古い流派からの分離を表す)の影響を受けたモダン建築。誰もがため息を漏らすような美しい建築に出合えるチャンスは年に一度だけ。注目の4施設はいずれも11月8日、9日に公開。お見逃しなく!
伊の僧院を模したロマネスク様式の「京都大学人文科学研究所分館」
昭和5年(1930年)に東方文化学院京都研究所として竣工。モダニズムを推進した東畑健三の処女作であり、代表作。ドイツで誕生したバウハウスの影響も色濃く受け、余計な装飾を排除したシンプルで機能的な美しさもモダニズムのデザインならでは。ここでは中世ヨーロッパを旅する気分で巡りたい。
石と煉瓦の対比が美しいネオ・ルネサンス様式の「旧御所水道ポンプ室」
京都御所に防火用水を送水するためのポンプを収容するための「旧御所水道ポンプ室」。明治期を代表する宮廷建築家の片山東熊の設計で、明治45年(1912年)に建てられた。明治維新で東京遷都となり、衰退した京都の復興のために琵琶湖疏水から西洋化の建築群が一気に誕生したという。110~120年のうち、使用されたのは昭和29年の火災の一度きり。1992年に送水管の老朽化のため、役割を終えたという。ここでは内部見学はできないが、外部を見て歩くだけでも冒険心をくすぐられそう。
日本の伝統×洋の新様式をミックスさせた、重厚な「五龍閣」
京都の東山の街中に突如出現するハイカラな建物。大正10年(1921年)に製陶業を営む松風嘉定の邸宅として、「関西近代建築の父」と称される武田五一が手がけた。当時は和館と対で建てられたが、現在は洋館のみが残る。瓦屋根や屋根飾りの鴟尾(しび)、格子状(日本古来の伝統的模様)デザインなども組み込まれ、日本の文化との融合作品といえる。和と洋の巧みな混ざり合いをじっくり鑑賞したい。
純和風でありながら洋風技術の粋を集めた「祇園甲部歌舞練場」
大正2年(1913年)、祇園の花見小路に芸妓や舞妓が出演する専用劇場として建てられ、春には「都をどり」、秋には「温習会」が催されることでも知られている。敷地内には来年3月に「帝国ホテル 京都」が開業することでも話題の地だ。外部、内部共に純和風に見せながらも、随所に近代の技術を集約させた唯一無二の名建築といえる。
見学の合間に食事したい、魅惑のモダン建築
ガイドツアーのみでの公開なのでパスポートでは見学はできないが、食事で立ち寄ることができる2軒。モダン建築巡りの合間に昭和初期の面影が残るドラマチックな空間で食事を楽しみたい。
・アールデコ様式の京町家で北京料理に舌鼓「膳處漢ぽっちり」
もともとは室町時代の200坪余りある町家造りの呉服商の店舗兼住居。昭和10年(1935年)にシンプルながらも洗練されたアールデコを取り入れたモダンな建物として竣工し、その後往時の歴史と文化を感じる佇まいを残しながらリノベーション。今は京都の食材を織り交ぜた伝統的な北京料理をいただける。
クラシカルな雰囲気漂う「フォーチュンガーデン京都」でフレンチビストロ料理を
昭和2年(1927年)に近代建築の巨匠、武田五一が手がけた島津製作所旧本社ビルを、2012年にレストラン、ウェディング、パーティーのための空間にコンバージョン。アーチ型の窓やロマネスク様式の柱頭、ファザードには丸いガラス窓など、建設当時のレトロモダンな面影を垣間見ることができる。
外から眺めるだけでも圧倒的存在感!
こちらは外見を眺めるだけでも必見!ロンドンのリバティ百貨店をモデルにしてヴォーリズが手がけた「大丸ヴィラ」、ロマネスク様式の元小学校をホテル兼複合施設として生まれ変わらせた「ザ・ゲートホテル京都高瀬川by HULIC」。少し遠回りして眺めてみては?
ヴォーリズが設計した圧倒的存在感ある洋館、「大丸ヴィラ」
昭和7年(1932年)に百貨店の大丸の初代社長である下村正太郎の私邸として建てられた洋館。地下鉄丸太町駅の北出口西にレンガ造り塀が見えるのですぐ分かるはず。残念ながら今年のガイドツアーの募集は終了している。
元小学校をリノベート「ザ・ゲートホテル京都高瀬川 by HULIC」
京都河原町駅から木屋町を北へ進むと3分ほどで左手に見えてくる。1928年にロマネスク様式の近代建築に建て替えられた元立誠小学校の校舎をコンバージョンし、ホテルを兼ねた複合施設へと生まれ変わった。ガイドツアーだけでなく、パスポートでも11月1日、2日に公開し、元小学校の自彊室を見学することができる。グラウンドだった場所は、今は近隣住民や観光客に開放し、憩いの場所となっている。

































