スタイリスト青木貴子さんによる、素敵な人に一歩近づく生き方指南。こんな時代だからこそ、前を向いて歩いていくためのヒントをお届けします。
きっかけはいつもそこかしこに!偶然を必然にする気づき感度を磨く
83歳、梅干し作りのお仕事をしている素晴らしい方がいる。乗松祥子さん、前途の通り御齢83歳。バリバリの現役。テレビで拝見したのだけれど肌のハリや美しさも半端ないし、もちろん立ち居振る舞い、背筋のシャンとした感じはとてもお年には見受けられない。梅が体にいい作用を及ぼすことは乗松さんを見れば一目瞭然(だって本当に綺麗)、そしてお仕事を続けていらっしゃるということがハリをもたらすのだなぁと感銘を受けました。
元々はお料理関係の職に就いていらして20代のころは名店「辻留」に。そこで100余年前の梅干しと出合い、それを少し分けて頂くという偶然に遭遇。でもこの段階ですぐに梅干し作りに惹かれたわけではなかったそう。その後親戚の方に頼まれ、病の痛み取りの目的でその梅干しをお分けする機会が(痛みを取る作用もあるのですね)。これが第二の偶然。その梅が効いて痛みが和らいだという話や、カラカラに乾涸びていた100年前の梅干しが梅酢に浸けていたらふっくらとその姿を回復し、食してみたところまったく普通に食べられるものだったことに衝撃を受けたのだとか。
100年(どころか500年)経っていても“梅干しは食べられる”というのは驚くべきことで、その話を聞いたら梅干しってすごい保存食!と誰しも思いますよね。普通はここで「すごいな、梅パワー」みたいなことで終わってしまうと思うのですが、乗松さんは100年経っても人の体に役立って次世代に食べ継がれる梅干しを作ろう!と決意し、そこから梅干し作りに携わるように。
ここです! ここが乗松さんの「感度」の良さ! 当たり前のことを当たり前で終わらせないのが「感度(=刺激に対して感じる度合い)」の良さや高さに磨きをかける要の考え方。自分がいなくなっても生き続ける梅干しにはロマンがあると考える、その純粋でお茶目な感性も素敵です。純粋で素直な感性も、感度を磨くにあたって必要な要素といえましょう。
乗松さんはこれをきっかけに20代のころから、働きながら休暇をとって年に数日梅干し作りの勉強を始めるように。そして数年経ったのちに自ら日本料理店を立ち上げ、その間も希少な野梅系である「杉田梅」という梅の保全や植樹を行い種の保存や梅仕事に尽力、70歳からは杉田梅専門店「延楽梅花堂」というお店を開店されました。
70歳になって新しいプロジェクトを始められるなんて素敵ですよね! それを知ったときは、感性と情熱があれば何かを始めるにあたって年齢は関係ないんだと光を見た思いがしました。
偶然の出会いはそれこそもしかしたら誰にでも毎日あるのかもしれません。アンテナが立っていないと良いものも大切なものを見つけられない。何かを「特別なもの」にするのは自分なのだということを乗松さんのご経験談からひしと感じました。「あれ? それってすごいことじゃない?」「興味がある!」「面白そう!」。出会った対象はひとでもものでもなんでも、一寸深く感じ入ってみると良いのではないかと思います。幾つになっても夢中になれるものを日常から見つけ出して育てる、うーんこれぞ生きる醍醐味のような気がします!