スタイリスト青木貴子さんによる、素敵な人に一歩近づく生き方指南。こんな時代だからこそ、前を向いて歩いていくためのヒントをお届けします。
美しく健やかに!身につけたい「美味しい知恵」
前回は「未病」に敏感になろうというお話をしましたが、今月は病気にならない体を作る効果的な予防策、「未病先防」(体に良い食事を摂ることで病気に至らせない)という考え方を持つ「薬膳」について触れたいと思います。
「薬膳」という言葉はみなさんご存知と思います。漢方生薬を入れた料理? 体に良さそうな食事のこと?といった印象でしょうか。なんとなーくのイメージはあっても、定義はあやふやでよくわかっていないという方の方が多いかもしれません。実際過去に薬膳ブームなるものがあったとき、専門を謳うレストランでさえ、きちんとした薬膳を出していないところもあったようです。
では薬膳とは何か、それは「食事は薬と同じく体を整えたり治したりする力があるもの」=「薬食同源」と捉えた中国の伝統医学理論に基づく、健康維持や病気の予防・回復に役立つ美味しい料理のこと。ウコンとか、朝鮮人参とか、葛根とか入手困難な漢方生薬が必要なんでしょって思われがちですが、入れなくたって立派な薬膳料理を作ることができます。日常的に食べているもの、そのすべてに効能と意味があるという理念が実は要となっています。
薬膳は、自然を大切にし、かつ自分の体調に合わせて組み立てる料理。都度都度の季節に出回る、いわゆる旬の食材を中心に適切に食べていれば大丈夫!っていう至極シンプルな発想がその根底にある気がします。兎にも角にも健康な体を作り上げたり維持するのにはとっても有益な手立てとなるもの!なのです。
薬膳料理を作る上で大切なのは「特別な食材」ではなく、「食べる時期」と「組み合わせ」の妙。それには食材の持っている資質を知ることが大切です。ひとが一人ひとり性格も役割も違うように、すべての食べ物にも食性と効能があります。これは体を「温めるもの/温熱性食物」「冷やすもの/寒涼性食物」「どちらでもないもの/平性食物」(食べ物の70%はここ)に分けられます。
まず温熱性食物は体が温まる、栄養吸収が良くなる、気の巡りが良くなる、血の巡りが良くなる。おー、いいことばっかり! 寒涼性食物は、体を冷やす、熱冷まし、炎症を食い止める、毒性除去。これも大切な役割を担ってますね。面白いことに、前者は寒い季節に寒い地方で取れるものが多く、後者は暑い季節に暑い地方で多く採れるのだそう。寒いときは温かくなるものが、暑いときにはクールダウンできるものが採取できるなんて、自然ってすごい良く出来ていますね、この世の創造主に感謝です。
昔から「旬のものは体に良い」といわれていますが、どの国も食の知恵は似ていますね。大まかにいうと旬の食材はその季節の体の調子を整える効能を持っています。なので積極的に旬のものを取り入れることが体にいい料理を作る簡単な方法です。
そしてもう一つ薬膳を知るうえで大切なのが「陰陽・五行理論」。すべてのものには陰と陽の二面性があり、森羅万象は5つの性質(=五行は木・火・土・金・水)に分類されるというもの。この5つのなかに春夏秋冬や体の部位(五臓五腑など)、味の違い(酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味〈かんみ、塩辛味〉)などもすべて分けられています。この相関図(五行式体表)を覚えるとぐっと薬膳の世界が面白味を増してきます。
たとえば春は「木」に区分される季節で、ここに属するのは肝臓、味(五味)は酸味。春は肝臓の働きが悪くなったりするので、酸味を摂ると体が整う。夏は「火」に区分される季節で、ここに分類されている心臓を痛めやすいシーズン。予防や対処には同じく火に属している苦味を摂ると良い、といったことがわかってくるのです。ありとあらゆるすべてのものがそれぞれ影響し合っているという仕組みがわかると、対処の方法も簡単にわかるようになります。酸っぱいものを摂りすぎたときは甘いものも食すといい、とかそういった具合です。薬膳的見地での食べ物の食性は、ちょっとネットで調べれば簡単にわかります、どの臓器には何を食べると良い、辛いものを摂りすぎたとは何を食べるとバランスが取れて効果的かなども知ると面白いし、役立ちます。
甘いものばかり欲する時は脾臓が弱ってる?なんて、五行論的発想を持つと体の声を察知することも容易になります! 体と会話が出来れば病気の原因をいち早く察知して対処することが可能に。これから暑さに向かうし、体調も乱れがちな季節がやってきます。「美味しい知恵」で楽しく健康維持。薬膳の世界、面白いですよ。