言葉を大事にする壇蜜さんが“今となっては見慣れすぎて見過ごしがちだが、よく考えると奥深い言葉”を「今更言葉」と名付けて考察。【今更言葉で、イマをサラッと】
その69 とか
彼氏とかいます? と聞かれて「彼氏とか?…『とか』のあとは旦那とか? 彼女とかいるか?って話かな…」と何となく気になってしまうのは、私が父から「とか矯正」を受けていたからだろうか。ただの口語表現と割り切ればいいものを。とか矯正とは、学生時代に父が「『とか』を使うときは2つ以上の事柄を挙げなさいね」と何度も教えてくれた思い出に由来する。私が名付けた。
「ネコとか好き」「小説とか読んでる」と言えば父は「『とか』を使うのは2つ以上あるときだよ」と指摘してくれたものだ。そのたび私は、「あ、そうか」と納得し、「ネコとか熱帯魚が好き」「小説とか漫画を読んでる」と言い直すのだった。
ちなみに父は言葉の専門家ではない。今も昔もいわゆる「サラリーマン」だ。ツアーコンダクターとか銀行の職員の経験がある。趣味は釣りとか卓球とかサイクリングだ。父の「とか矯正」は今でも、いや、今だからこそありがたいなと思う。思春期の頃は「また言われたー」としかめ面になるときも正直あったが。
彼氏とかいます? 以外にも「嫌いなものとかあります?」「お酒とか飲みます?」など、質問する側が何となく特定をさけたい気持ちがあるのか…「とか」は乱用されがち。答える側も「苦みの強い野菜とかは得意じゃないですね」「缶チューハイとかはよく家とかで飲んでます」と強調していませんよ、そんなにこだわりある訳ではありませんよ、と伝えたいときに用いられがちだ。質問や答えをぼやかしたい気持ちは分かるが、その「とか」が気になる人は一定数いるだろう。「とか」の使いすぎは当人の印象すらぼやかしてしまう危険性があるのでご用心。
ちなみに、「お酒は飲みます?」と聞いた際、「そうですね、チューハイとかビールとかハイボール、あ、あとオレンジのカクテルなんか好きで飲んでいます。最近はコンビニでも美味しいのたくさん売っていますよね〜こないだも…」と指折りながら伝える知人がいた。少し年上の女性だったが、指を折りながら複数回答する姿が妙に可愛くて、キュンとした。4つ挙げてくれたので、小指を立たせたまま喋り続けるなんて、可愛すぎだろう。