映画『春に散る』で、ボクシングに命を懸けるオトコを演じた佐藤浩市さんと横浜流星さん。格闘技と演技、そのどちらにも全力を注ぎ、戦ったふたりの覚悟とは。前回に続き、インタビューの後編をお届け。
一瞬にすべてを懸けて生きる
本作に企画段階から加わっていたという佐藤さんは、当初からタフな撮影になることは覚悟していたという。
「だからこそ、俺の背中を見てろ、という師弟関係ではなく、翔吾と僕が演じた広岡の関係をもっとフラットにしたいと思いました。そしてそれは僕と流星との関係性のなかでも意識しました。だって流星がどれだけ大変かは、僕だってずっと役者をやってきましたからすごくよくわかるんですよ。
特に試合のシーン、流星と、窪田(正孝)くんの壮絶な試合のセコンド(編集部注:格闘技における介添人のこと。リングの横に付き指示を出したりする)に僕は付いているのですが、試合をしている彼らに気持ちが入っていなかったら、セコンドの僕のシーンにはもう何も映らないんですよ。『はい、リングの上撮ります』『はい、次リング横のセコンドの佐藤さん撮ります』って流れ作業になってしまっては、僕がどんな演技をしたって何もない。彼らがリングの上で、本当に汗と火花と血飛沫を飛ばして、真剣にやってくれなければ、こっちは何もできない。そのことも、彼らはわかっていたから、全力で戦ってくれた」
佐藤さんが桜の木の下にいる、というシーンでは、その撮影は実際に桜が満開になるまで季節を待って行われた。ここにも「映画は嘘だけれど、嘘に見せない」という強い思いがあった。
「それは、別の作品で僕が『咲くまで撮影は待とう』と言ったことがあったんです。監督はそれを知っていたのかもしれません。『本当に待つんだ!?』と少し驚きましたが、『まぁ、自分が言ったことだしな』と思って、大人しく待ちましたよ(笑)」(佐藤さん)
最後にふたりに、改めて演技と格闘技の共通点を聞くと、まず横浜さんが口を開いた。
「格闘家の方が試合のことを『作品』と呼んでいるのを聞いたことがあります。1試合に自分の持てる力をすべて注ぎ、人の心を動かそうとする。そこは役者とも通じる部分かもしれません」
その横浜さんの言葉を聞いて、佐藤さんも頷く。
「相手も含めてどう見せるか、プロの格闘家の人もそれを考えていると思います。相手を弱そうに見せるのか、強そうに見せるのか、そういう戦略もある。僕たちだってそういう戦い方を日々していますから」(佐藤さん)
映画『春に散る』
原作/沢木耕太郎
監督/瀬々敬久
出演/佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、窪田正孝、山口智子ほか
https://gaga.ne.jp/harunichiru/
※8月25日(金)全国公開中
佐藤浩市(さとうこういち)
1960年12月10日生まれ、東京都出身。’80年俳優デビュー。映画『青春の門』『忠臣蔵外伝 四谷怪談』『美味しんぼ』『KT』など数々の作品で主演を務める。公開待機作に『愛にイナズマ』がある。
横浜流星(よこはまりゅうせい)
1996年9月16日生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。映画『線は、僕を描く』『ヴィレッジ』などに主演。’25年NHK大河ドラマ「べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜」で主演を務める。