ボクシングに命を懸けるオトコを演じた佐藤浩市さんと横浜流星さん。格闘技と演技、そのどちらにも全力を注ぎ、戦ったふたりの覚悟とは。今回はインタビューの前編をお届け。
この作品を嘘にしたくなかった
「あいつは、本当にたどり着いたんだな。本当にやりやがったんだな。そう実感しました」
佐藤浩市さんは、横浜流星さんがボクシングのプロテストに合格したという報告を聞いた日のことをそう振りかえった。
「役者がやっていることって、結局嘘なんです。けれど簡単に嘘に見えてはいけない。そのためにどこまでできるかということなんです」(佐藤さん)
映画『春に散る』で、横浜さんは、チャンピオンを目指すボクサー・翔吾を、そして佐藤さんはその翔吾に乞われトレーナーになることを引き受けた元ボクサー・広岡を演じた。映画のなかだけでなく、横浜さんが実際のボクシングプロテストを受けたのは、その撮影が終わって3ヵ月後のことだった。
「自分は格闘技が好きで、小さいころから空手をやっていました。俳優になっていなかったら、きっと今も、空手の選手を続けていたか、空手にまつわる仕事をしていたと思います。時々、当時一緒に空手をやっていた仲間が選手として活躍する様子を、うらやましい気持ちで見ていることもあるくらいです。
格闘技へのリスペクトが強くあるからこそ、絶対にこの作品を嘘にしたくなかった。ボクシングのプロテストを受けたのは、少しでもこの作品に説得力を持たせたい、その一心でした。撮影中は、佐藤さんや指導に入ってくださったボクサーの方に、『流星が合格するために、あとはスパーリング(編集部注:試合形式で行う練習)をどれだけこなせるかだけ』と言われて、プロテスト直前はそれがずっと頭のなかにありました」(横浜さん)
『春に散る』の撮影が終わり、すぐに、横浜さんは別の舞台作品に入った。3ヵ月間の公演を終え、千秋楽を迎えたその日から、再びスパーリングを始め追い込みをかけ、テストに臨んだのだという。すでに『春に散る』の撮影は終わっていて、もうボクサーを演じる必要はないにもかかわらず、横浜さんは「映画が嘘に見えないようにするために」、再び苦しいトレーニングを自分に課し、テストに挑んだのだ。
「格闘技は、儚さを内包しています。ボクシングは3分12ラウンド、その時間で勝ち負けがはっきり分かれる。その日のためにすべてを懸けてきたにもかかわらず。だから格闘家の方は、負けたら死だと思っています。覚悟が違います」(横浜さん)
>>インタビュー後編は9月8日公開予定。
映画『春に散る』
原作/沢木耕太郎
監督/瀬々敬久
出演/佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、窪田正孝、山口智子ほか
https://gaga.ne.jp/harunichiru/
※8月25日(金)より全国公開中
佐藤浩市(さとうこういち)
1960年12月10日生まれ、東京都出身。’80年俳優デビュー。映画『青春の門』『忠臣蔵外伝 四谷怪談』『美味しんぼ』『KT』など数々の作品で主演を務める。公開待機作に『愛にイナズマ』がある。
横浜流星(よこはまりゅうせい)
1996年9月16日生まれ、神奈川県出身。2011年俳優デビュー。映画『線は、僕を描く』『ヴィレッジ』などに主演。’25年NHK大河ドラマ「べらぼう 〜蔦重栄華乃夢噺(つたじゅうえいがのゆめばなし)〜」で主演を務める。