言葉を大事にする壇蜜さんが“今となっては見慣れすぎて見過ごしがちだが、よく考えると奥深い言葉”を「今更言葉」と名付けて考察。【今更言葉で、イマをサラッと】
その65 ポンコツ
使えない、役立たず、足手まとい…こんな風に言われたら誰でもへこむ。偏見かも知れないが、男性は特にへこむ傾向があると思う。更に、器が小さいとか、扱いが下手とか、言い方がしつこいなどでも十分殺傷能力はあるようだ。
実際、昔の恋人とケンカになり、「それくらいで怒るなんて…小さい」とうっかり言ってしまったら真っ赤になって「人を傷つける言葉を使った!」と怒鳴り返されたことがある。ドライブ中に男が話しかけたら、助手席で私が居眠りしていて反応が無かったことに腹が立ったらしい。はいはい、私が悪うございましたよ。
最近では期待通りの働きをしてもらえない状態のことを総じて「ポンコツ」と表現するなぁと考えていたら、上記のような思い出が蘇った。
ポンコツは役立たずや足手まといなどに比べたら人に深い傷を与えないレベルのいじり言葉として使われているように思える。ポンコツじゃん!と言われた相手も苦笑いをしたりわざと「ポンコツですよ!」と肯定したりして笑いに繋げるパターンが多い。無論ポンコツと伝えても角が立たない関係性の上に成り立つやり取りだろうが、ポンコツ、という言葉のリズムがどこか深刻にならないで済む要素を持っているのもあるのかも。
ポンコツは「げんこつ」が聞き間違えられた説、パンチとげんこつが混合した説と様々ある。いずれも語源は殴ることから始まり、ポンとコツという殴る音が連なりできた擬音語組み合わせスタイルのようだ。その後使えなくなった車をポン、コツンとたたき壊す…解体屋はポンコツ屋だ、的な表現が小説でも引用されるようになる。廃車を更に壊す姿が人の能力の低下にもリンクし、機械や設備だけにとどまらず人にもポンコツが使われるようになったと推測する。
しかし元を辿れば期待にそえてないことを揶揄されているのに変わりはない。バラエティ番組でお馴染みになってしまった言葉だから、ポンコツだなと言われても何か言い返せば言い訳がましく聞こえてしまいそうだし。何か任され結果を見られる前に「いささかポンコツですが善処します!」と宣言するのもアリだろうか。