学生時代部活に入っていると、独自のルールがあったり、上下関係が厳しかったりしたもの。田中みな実さんが理不尽だと思いながらも、今に生きていることも多いと語る経験とは。【連載「田中みな実のここだけ話」】
今回のテーマ:なつれん
年賀状や暑中見舞いを書いて腱鞘炎になるのは毎度のことで年2回も訪れるこの日本の風習を疎ましく思った。6学年合同の部に所属していると先輩の数が多い。イラスト入りのハガキは禁止。無地のハガキに黒の万年筆で縦書きというのが決まりだった。内容は日々の感謝とこの夏の目標をびっしりと。「バク転宙返りができるように“なりたいです”」ではなく「なります。」と、言い切る文章にするのも中2の先輩から懇切丁寧に教わった。
うんざりするような暑さと響き渡るセミの鳴き声は、私に中学高校時代の器械体操部の“なつれん”の記憶を呼び起こさせる。夏の間中ほとんど毎日練習で顔を合わせるのに暑中見舞いを送る意味って…?などとケチをつける暇もなく、とにかく懸命に部活動に励んでいた。上級生よりも先に仕事をみつけ、無駄なく行動するのが当たり前。先輩が通る場所の雑巾がけ、その日に使う器具の用意・点検、人数分の麦茶を作って、つま先立ちで上級生を出迎える(体幹トレーニング? これも決まり)。
上級生が体育館の入り口を跨ぐその瞬間に「おはようございます!」と声を張り上げ元気に挨拶。それも、人数分。つまり、30人入って来られたら30回「おはようございます!」「おはようございます!」「おはようございます!」と、ねじが外れた九官鳥みたいに繰り返す(笑)。如何なる場合も目上の方に雑務をさせるなんて以ての外だから、ズレたマットを上級生が直そうとしようものなら下級生が猛ダッシュで追い抜き「代わります!!」と申し出る。出遅れてしまった、さらに下の学年の子が「代わります!」を「代わります!」で“代わります”の渋滞が巻き起こる。
こうして振り返ると、すべてが意味のあることだったように思えないし、理不尽は多かった。それでも、厳しい練習、上下関係、礼儀(暑中見舞いを含む!)、ここで学んだすべてがその後の人生の役に立っている。今どきは何かしらのハラスメントにあたるからこんなの全部ナンセンスなのかもしれないけど、夏のこの記憶は毎年私を少しだけ誇らしい気持ちにさせてくれる。
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