“わたしの心地よさ”を基準に行動することが、ウェルビーイングに生きるカギになる。そのために、もっと自分自身を知る=自分のトリセツを手に入れませんか? 保健学博士の島田恭子さんがナビゲート。今回は、リフレーミングという思考法のお話。【連載「自分学 わたしのトリセツ」vol.16】
今回のテーマ:リフレーミングを習慣化しよう
「人見知り」
「集中力がない」
「すぐ人に頼ってしまう」
「こだわりすぎ」
「引っ込み思案」
――”自分の性格を5つ、挙げてください”という問いに、A子さんが出したのがこの5つ。
東京の某私大、コミュニケーションの授業で、私が毎年やるワークです。
控えめな日本人らしいですよね…。この質問をすると大体はポジティブなものより、ネガティブな方がよく出てきます。
それもそのはず。日本人は西洋人に比べ、遺伝子的にネガティブに寄りやすいことが分かっているんです。たとえば私たちの体の中で、精神を安定させる役割をもつセロトニンという物質。シナプスを介して神経の間を移動するのですが、一部元の神経細胞へリサイクルされていて、その量は遺伝子レベルで決まっています。
ごくごく簡単にいうと、そのリサイクルの量が多い(LL型)人はより精神が安定する傾向があり、慢性的に少ない(SS型)人は「不安を感じやすい」、というわけです。
この遺伝子型、人種によって顕著な差が見られます。
ある研究では、LL型を持つアメリカ人は30%を超えるのに、日本人ではたったの3%弱。一方SS型はアメリカ人で2割しかいないのに、日本人は7割を超える、という結果も。ナルホド、日本人がネガティブに寄りやすいのも、遺伝子レベルから、なのですね…。
世界有数の地震災害国。不安を感じやすいからこそ、来たる災害に備える。長い年月をかけて、そんな環境に適応するために、進化したのかもしれませんね。
――遺伝子レベルで不安を感じやすい繊細な私たち。リスクには備えられるけれど、時としてそんなネガティブさが、自分自身を窮屈にさせてしまうときもあるでしょう。
確かに私たちの生まれもった遺伝や特性はありますが、その後の環境や生き方も、同じくらい重要。一説には「遺伝が5割、その後も5割」ともいわれています。
というわけで今回ご紹介するのが、「リフレーミング」という手法です。
「コップに半分しか水がない」のか、「半分も水がある」のか問題
「リフレーミング」とは、”ものごとや状況などの枠組み(フレーム)を再構築すること”。
私たちの思い込みや固定観念を、今とは別の視点でとらえなおすことで、新しい見方を得る思考法です。私たちはみんな、生まれ持った性格や育てられた環境などで、それぞれ考え方や、とらえかたの”くせ”を持っています。一人ひとりがそれぞれ、ちょっとずつ違う色の色めがねをかけて、外の世界を見ている感じです。
その”くせ”がネガティブ(コップに半分しか水がない)に寄りがちなのを、イシキ的にちょっと、ポジティブ(まだ半分も水がある)にしてみると、窮屈になったこころが、ラクになることがあります。いつもかけているこころの色めがねを、違う色にかけ替えてみる、というイメージでもいいかもしれません。
先ほどのA子さんの例。彼女が挙げた性格を、すこしポジティブな色めがねに変えてみると…
人見知り → 礼儀正しい
集中力がない → いろんなところに目を向けられる
すぐ人に頼る → 頼れる友達が多い
こだわりすぎ → 粘り強い、徹底的に取り組む
引っ込み思案 → 丁寧で慎重
なんて、素敵な性格でしょう。礼儀正しく、粘り強く丁寧。多角的視野を持ち、頼れる友人に囲まれている…。
これは実際に講義内でA子さん自身が挙げてくれた、リフレーミング結果です。
他の学生もみな、ものの10分で、それぞれご自分の挙げた性格を、次々に楽しそうにリフレーミングしてくれました。面白いのがたくさん出てきましたので、ちょっとだけご紹介しますね。
適当 → こだわりない
マイナス思考 → 悪いことを予測できる
飽き性 → 色んなことに取り組める
クソガキ → 自由奔放
言い方がきつい → ちゃんと向き合ってくれている
遊びすぎ → フットワーク軽い
部屋が汚い → 適応能力が高い
野菜嫌い → 野生的
自信がない → 謙虚
空気が読めない → 率先力がある
モテない → 個性的、見えない魅力
お金にルーズ → 今を楽しんでる
すぐ顔に出る → 素直
偉そう → 自分に自信がある
感情的 → 感受性豊か
忘れやすい → 嫌なこと忘れられる
せっかち → 時間厳守
無知 → 新しい知識が増やせる
物忘れが激しい → あるものだけで生きていける
真面目すぎる → 物事を慎重にこなす
めんどくさがり → 合理的
金遣いが荒い → 経済に貢献
遅刻 → よく寝て健康
すぐ怒る → 反応がいい
リフレーミングのいいところは、心がけ次第でかなりカンタンに習慣化できること。日ごろ悲観的になりがちな人ほど、リフレーミングの伸びしろは大きいはず。イシキして書き出してみれば、どんどん出てくることに驚かれるはずです。
とはいえ、昨今、ちまたにはポジティブワードが溢れ、ポジティブ思考を奨励しすぎな一面も。そんなポジティブ、ハッピーオーラに、疲れを感じることがあります。
確かにすべてのものごとには表と裏があって、絶妙な均衡でバランスが成立しているのだから、オール・ポジティブには、無理がありますよね。ただ、ネガティブに裏打ちされたポジティブ思考であることをイシキしつつ、やっぱり「まだ半分も水がある」と考えたほうが、キモチがラクで、救われるときがあるのも、また事実。
じめじめした雨にため息をつく代わりに、「緑が潤う恵みの雨」と思ってみる。
少し体調を崩したら、嘆く代わりに神様がくれた休息をありがたく満喫する。
そのほうが、雨の中を気持ちよく出かけられるし、体調の回復も早まるはず。毎日の生活にリフレーミングのくせづけ、してみませんか?
参考文献
F Murakami, et al., Anxiety traits associated with a polymorphism in the serotonin transporter gene regulatory region in the Japanese. J Hum Genet. 1999;44(1):15-7.
Luke Esau et al., The 5-HTTLPR polymorphism in South African healthy populations: a global comparison. Comparative Study J Neural Transm (Vienna). 2008 May;115(5):755-60.
島田恭子(しまだきょうこ)
医学や心理学の知見を、女性のウェルビーイングに役立てたいと活動中。東京大学大学院でこころの予防医学を学び、保健学博士となる。(社)ココロバランス研究所代表。
https://customer-harassment.org/kyokoshimada/