染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。今回は、横須賀美術館で行ったワークショップにまつわるお話。【連載「植物と私が語るとき」】
アートと自然が融合した美術館でのピクニック体験
先日、神奈川県の横須賀美術館で染色のワークショップを開催しました。横須賀美術館は、景色や建築自体も楽しめる絶景美術館として全国的にも好評の美術館。館前には気持ち良い芝生が広がり、その奥には美しい海が煌めいています。
この美しい景色を眺めていたら、ピクニックのようなワークショップがしたいというアイデアが私のなかに湧いてきました。これまで私は染色のワークショップを開催する際に、お教室のような形式になりがちで、自由な発想や五感を刺激する場を作りきれていないモヤモヤを感じていました。そこで今回は、机もイスも使わず、地べたに布を敷いて参加者が輪っかになり、植物をお鍋でコトコト煮込みながら染色を体験するピクニック形式の会に初挑戦。その結果、ゆるりとした自由な雰囲気が生まれ、自分の求める風景に一歩近づいたような気がしたのです。
「ピクニック」の語源は「piquer=つまむ」「nique=ささいなもの」という意味があります。身近にあるささやかな野草たちを摘んできて、景色を眺めつつ、染まりゆく時間を楽しむこと。これが参加者にも好評で、便利な人工物に囲まれた時代に生きる私たちだからこそ、シンプルでナチュラルな体験をみんなが求めているのかも、と気付かされました。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。