染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。【連載「植物と私が語るとき」】
半径3mの創造力
「半径3m以内に大切なものはぜんぶある」。ある広告の宮崎駿監督の言葉です。
10年以上前に出合った言葉ですが、2020年にステイホームという言葉が世間に広まり始めた頃、頭の中の引き出しからふと出てきました。物理的に遠くにいけない事態となり、身近な出来事により目を向け始めたからだと思います。
この時期に私は家庭菜園を始め、ヨモギやドクダミなど、庭の雑草を染料に活用し始めました。すると思った以上に美しい色に染まったので、様々な雑草を使って何枚もの布を染めるようになり、それらを繋げてみたくなったのです。
以前、旅先の海外で染めた布があったことを思い出し、タンスからもハギレを引っ張り出して縫い合わせ、やがて一枚の旗が生まれました。異国の地と、庭先の植物。出合うことのない植物同士が「染色」によって一枚の布の上に共存している。私はそこに時空を超えた平和を感じます。庭先で雑草を抜くことと、タンスを開けてみること。半径3mの平凡な出来事が、私に思いがけず“平和の旗”を作らせたのです。私にとって大切な作品のひとつが生まれた瞬間でした。
今、これを読んでいるあなたの半径3mには何があるでしょうか。創造の種は、意外と身近にあるのかもしれません。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。