染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。【連載「植物と私が語るとき」】
薬草園から学ぶ、健やかな生き方
寒さの残る春先、奈良県宇陀市に一人旅へ。目的地は日本最古の私立薬草園である「森野旧薬園」(1729年創始)。宇陀市は生薬で有名な地で、611年に推古天皇が最古の「薬狩り」をした記録も残っています。私は草木染の染料に生薬を使う機会が多く、生薬の歴史を調べるなかでこの場所を知りました。
薬園に入ってまず驚いたのは「園」というより「里山」のような風景であること。野草のように道の脇に薬草が生えています。この何とも居心地よい薬園の風景は、半栽培/半自然という方法で営まれています。自然実生やこぼれ種による自然な繁殖を取り入れているのです。それは管理の放棄ではなく、高木をあえて残して日当たりを調整したり、雑草を抜いたり、植物の声なき声を感じ取り、周囲の環境を整えていく作業。
人間も同じで、居場所を指定されたり均一な生産性を求められるより、好きな場所に育ち、周囲の環境をしなやかに整えていくことで自生できる方法を見つけていくほうが、より健やかに生きられるのではないか。植物の姿と共にそんなことを想像しました。294年の歴史を持つ森野旧薬園は、まさに生物多様性の原風景。現代の人間社会にもいかせるふるまいが広がっていました。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。