染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。【連載「植物と私が語るとき」】
尊いものは森の気配がする
先日、京都の京北地域にある「工藝の森」を訪れました。一般社団法人パースペクティブさんが運営する「工藝の森」は、「ものづくりは木を植えるところから始まり、また森を育むことを促す」という、ものづくりを介した資源循環を目指す学びと実践の場であり、その一つの形が漆の植樹・育林です。
森を案内してもらい漆の木を見に行きました。初めて見る漆の木は素朴で可愛らしく、どこか凛とした印象。漆の原料は樹液であり、1本の木から採れる量は約200㏄。それも、採取できるほどにまで大きく成長するには、通常10〜15年ほどかかるそうです。15年かけて牛乳瓶1本分。気の遠くなるような時間に、日本の漆の世界を繋げてくださる方々に頭が下がる思いになりました。
今31歳の私が木を植えて、樹液が採れる頃には46歳になっているなんて…! 漆の木を植えることは未来の森の姿と、ものづくりの在り方を繋いでいく行為なのだと知りました。
森をあとにして市街地に戻り、お店に並ぶ漆の器を見て、その日に見た漆の木の15年後の姿を想像しました。ものの背後にある森の気配を感じると、ものが尊く感じられます。ものづくりの始まりは自然にあると、漆が教えてくれたのです。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。