本当は興味津々なのに、決して踏み出せない――芸人 紺野ぶるまさんの自分観察。【連載「奥歯に女が詰まってる」】
無課金でエイジングケアをする女

38歳、日々鏡を見るたびに気になることが増えていく。
頬のシミや目のシワ、小鼻の広がりなど言い始めたらキリがないが、何より見過ごせないのが髪の毛の減少である。どの美容室に行っても「髪の毛多いですね〜」と言われてきた人生だったが、最近はそういうことも無くなった。出産のあとにブリーチを重ね、エイジングが始まった今、前髪あたりの地肌の見え具合はそろそろ手立てを打たないといけない気がしている。おでこを出すと生え際が確実に後退し癖毛も加速した。
意を決して5万円のアイロンを買ったが、外に出てしばらくすると嫌な感じでチリチリして残りの毛も元気がない。
髪のことで悩む日が来るなんて信じられない。これ以上減ることを考えると絶望感すらある。こんなにショックなものなのかと初めて知った。
周りにいる頭皮を潔くネタにしている男性の先輩芸人たちを思い、「二度と気安くいじったらいけない」と誓う。
さて、シミはレーザーを当てればいいし、目のシワや小鼻の広がりもそう、大手のクリニックに行けばなんとかなるのはわかる。
髪の毛は、どうすればいいのだろうか。気休めに暗めのシェーディングで頭皮の隙間はカバーすることはできるがもっと根本的に向き合いたい。
効果的な注射があれば打つことも検討しているし、増毛移植とかになってくるのだろうか。
どうにかなるならいくらでも課金したい。
なんて話をいつもいく美容室でこぼすと担当の女性はわたしの頭をじっと見つめ「まず頭皮のターンオーバーがうまくいってない感じがする」と言って毎日シャンプーの前に38度以下のお湯で三分間ゆっくり頭皮をもむことを教えてくれた。
「あと豆と魚を食べて」と。
この数年で、髪や頭皮の勉強をし資格もとったらしく、かなり丁寧に答えてくれた。
「そんなことでいいのですか?」と言われたとおりにすると、2週間も経たずに驚くほど髪に元気が戻ってきたのだ。
毛穴の余分な脂が少し出ていってくれたからか、乾かした際、髪の毛が前ほどとっちらからない。
何より頭を揉む時間が自分を愛でている時間のようで楽しい。最近はそれがてんでなかった。エイジングと向き合うのが嫌だったのだ。
美容師さんの知恵に感謝し、「課金」すればいいという思考が私の頭を固くしていたのだと気づくのだった。
老いは加齢からくるのではなく、己の再生力をみくびることで加速するのだと学んだのであった。
最後に
髪の変化に悩む人とかけまして
現実を見たくないひとと解きます。
その心はどちらも
頭皮(逃避)について考えるでょう。
紺野ぶるま(こんのぶるま)
1986年9月30日生まれ。松竹芸能所属。著書に『下ネタ論』『「中退女子」の生き方 腐った蜜柑が芸人になった話』『特等席とトマトと満月と』がある。
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