6月12日(金)より配信されるPrime Originalドラマシリーズ『クロエマ』は、“分かり合う”だけではない関係の豊かさをそっと映し出す。ダブル主演を務めた杉咲花さんと多部未華子さんに、インタビューすると、言い切れない距離感だからこそ生まれる、やさしくて新しい心地よさがありました。
“否定しない距離感”が生む心地よさ


海野つなみさんの同名漫画を原作に、杉咲花さんと多部未華子さんがダブル主演を務める『クロエマ』。恋も仕事も住む場所も失った30歳のエマと、謎めいた資産家・クロエが思いがけず始める同居生活と、小さな占い店を舞台にした物語。人の悩みにそっと寄り添いながら、言葉の奥に隠れた本音や、日常に潜む小さな謎をすくい上げていく。
監督を務めるのは、『愛がなんだ』『街の上で』など、揺れる感情を繊細に映し出してきた今泉力哉さん。過去に今泉作品を経験してきたふたりは、今回の現場ならではの魅力について、それぞれの言葉で語ってくれた。
多部未華子さん(以下、敬称略) 「前回ご一緒させていただいたときは、もう記憶にないくらい前ですが(笑)、今泉さんの空気感や世界観そのものは、変わっていないと思いました。言葉では表現しにくいんですが、“今泉ワールド”みたいなものは今回も感じられました。漫画の世界を大切にしながらも、今泉さんらしい脚本になっていて、それがすごく好きだと思いました。大きな刺激というより、小さな刺激をたくさんもらった感じがして、とても楽しかったです」
杉咲花さん(以下、敬称略) 「個人的には、長い期間ご一緒するのが今回初めてだったんですけど、お芝居に対する演出はもちろん、画に映るすべてのものに対して、本当に細部まで意識を向けられている方だと思いました。1ミリ単位で調整を重ねながら撮影を繰り返していく姿は、すごく新鮮でしたし、そのこだわりが作品の世界を美しくしているんだと感じました。正直、監督の要求に応えていくことは根気も必要で、常軌を逸したこだわりを感じる場面もありましたが、OKをいただけるまでのすべての道のりに大きな価値や意味を感じる現場でした」

気後れしているように見えて人懐っこさを持つエマと、無愛想ななかに本質的な優しさを持つクロエ。演じた役には、どんな惹かれどころがあったのだろうか。
多部 「クロエは、愛想が悪いとか言い方がきついと言われるシーンも多いのですが、蓋を開けてみるとすごく思いやりがあって。物事を多方面から俯瞰して見られる人なんですよね。自分の価値観だけじゃなくて、いろんな人の価値観があってこそ成り立っている、ということを自然に言葉にできる人。直接描かれていない部分も含めて、人間味があふれているというか、最初の印象とは違う“いい意味でのギャップ”がある、とても魅力的なキャラクターだなと思いました」
杉咲 「想像の斜め上をいくような思考を持っている人なので、読んでいて思わず笑ってしまう瞬間も多かったです。エマは逆境があっても、ぶつぶつ文句を言いながら、なんだかんだ乗り越えていけそうな、生きていく力がある人だと感じて、そこがとても好きでした」
そしてふたりの関係性について聞くと、共通して挙がったのは“距離の心地よさ”だった。一緒にいるけど、全然仲良しという感じではないところが、これまでのシフターフッド像を壊す。
多部 「『私はこう思うけど』と、それぞれの言い分を伝えられる関係。相手を否定したり、見下したりすることなくいられる、その距離感はすごく居心地がいいんじゃないかなと思います」
杉咲 「馴れ合わないというか、本当にそこまで仲は良くないのだけれど、近くにはいる。意見が異なるときはぶつかって、でも余裕があるときには相手のことを少し想像してみたり、手を差し伸べたり。年齢も立場も、生活環境も違うふたりだけれど、精神的にはすごくフェアな関係なんじゃないかなって。そこが健やかで素敵だなと思いました」

価値観もライフスタイルも真逆のふたりだが、違いを否定しないからこそ成立する距離感。その理由について――。
多部 「『あなたはそうなんだね』と受け止めて、そこに深く引っ張られないんです。エマはとくに、周りに左右されない“自分らしさ”みたいなものがあって。それも心地よさにつながっているのかなと思います」
杉咲 「クロエさんが身につけるものはきっと、上質で、着ていて心地のいいもの。エマはまだそこまでの余裕はないけれど、そのなかでも自分なりのこだわりがあるのではないかなと思いました。それぞれの状況や価値観は違っても、自分で意思を持って選んだものを身につけているというところは、ふたりに共通しているのかなと思います」
近すぎないのに、遠くもない。そんなふたりの関係性が、今の時代にそっと寄り添うような、新しい“心地よさ”を描き出している。作中ではエマとクロエの会話シーンは多く、そのやり取りの呼吸には特別な意図が込められている。
多部 「監督は、テンポ感というか、ふたりの会話のリズムには、すごくこだわりがあった気がします」
杉咲 「私も『ゆっくり話してほしい』と指示を受けたことが印象に残っています。あと、人の話を聞いているときに無意識に相づちを打ってしまっていたんですけど、『それはなくしてほしい』と言われたことも。リアリティだけでは成立しない部分がある作品だからこそ、そういったバランスを繊細に調節していく、その塩梅が最初は難しかったのですが、エマのエキセントリックな思考に、視聴者の方々が一緒についてこられるような絶妙なバランスを、今泉さんが現場で探ってくださっていたのかなと思います」

実際の撮影現場ではどのような苦労や印象的なシーンがあったのだろうか。言葉の奥にある気配を感じ取る本作らしく、ふたりの素顔にも遊び心がにじむ。
多部 「占いのシーンは、こぢんまりとした空間で、4日間くらい撮影していて。ほとんど座りっぱなしで、ずっと相手役の方と向き合っていたので、ちょっと息が詰まるような…(笑)。メンタル的にもなかなか大変でした」
杉咲 「私は第1話の冒頭で、クロエ邸でクッキーをご馳走になるシーンがあるのですが、長回しでカット割も多く、何度も何度も撮影をしました。そのたびに、ひたすらクッキーを食べ続けていて。それがクランクインのシーンだったこともあり、今泉組の“洗礼”を受けたなと思います(笑)」
さらに話題は、毎話登場するまるで芸術品のようなパフェにちなんで、“自分にとってのパフェのような存在”へ。
多部 「干し芋です。小さい頃から家にあって、当たり前のように食べていたんです。今でも家にストックしていて、小腹が空いたときについ手に取ってしまいます。お気に入りの干し芋があるんですけど、それを見つけると『はあ〜〜!』ってなります(笑)」
杉咲 「私は夕日が好きで。きれいな夕日を見られると、『あ〜嬉しい』って思います。この作品も、倉庫に閉じこもって撮影することが多かったので、ふと外に出たときにきれいな空が見えると、癒やされていました」
それぞれの“日常の小さな救い”が、そのままふたりの役柄にもどこか重なって見えてくる。そんなさりげない共鳴もまた、本作の魅力のひとつなのかもしれない。
まるで正反対のように見えながら、心地よい距離を紡ぐエマとクロエ。その関係は、“友情”や“シスターフッド”というひと言ではくくれない、やわらかくて新しい距離感を見せてくれる。杉咲さんと多部さん、ふたりの佇まいが重なることで生まれる静かな強さにも、ぜひ注目したい。
【6月12日(金)配信】Prime Originalドラマシリーズ『クロエマ』

キャスト/杉咲花 多部未華子
岩瀬洋志 / 井之脇海 河井青葉 野添義弘 諏訪太朗 / 光石研
原作/『クロエマ』海野つなみ(講談社「Kiss」連載)
監督/今泉力哉
※6月12日(金)より、毎週金曜日3週にわたり配信
杉咲花(すぎさきはな)
1997年10月2日生まれ、東京都出身。2016年に公開した映画『湯を沸かすほどの熱い愛』で第40回日本アカデミー賞や第41回報知映画賞、第59回ブルーリボン賞の助演女優賞をそれぞれ受賞。 また、ドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」(24年)で主演・川内ミヤビ役を熱演し、記憶障害を抱える医師という難役を見事に表現。NHK連続テレビ小説「おちょやん」(20年)や映画『市子』(23年)など数々の賞を受賞する確かな演技力で高い評価を得ている。今泉力哉が監督・脚本を担う、26年1月期のNTV 系ドラマ「冬のなんかさ、春のなんかね。」でも再タッグを組み主演を務めた。
多部未華子(たべみかこ)
1989年1月25日生まれ、東京都出身。2005年、映画『HINOKIO』『青空のゆくえ』での演技 が高く評価され、『第48回ブルーリボン賞』新人賞、『第15回日本映画批評家大賞』新人賞 (小森和子賞)を受賞し、一躍注目の的となる。NHK連続テレビ小説「つばさ」(09 年)でヒロインを好演し、2017年には『第8回コンフィデンスアワード・ドラマ賞』主演女優賞を受賞。以降、映画『アイネクライネナハトムジーク』(19 年)、『流浪の月』(20年)、ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(20年)、「いちばんすきな花」(23年)、「対岸の火事〜これが私の生きる道!〜」(25年)、「シャドウワーク」(25年)など数々の話題作に出演。 現在、NHK 連続テレビ小説「風、薫る」に出演中。
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