令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
ドラマと出会う季節
春だ。現在このエッセイの締め切りは毎月15日としていて、これを書いている今日は、4月13日。脚本の執筆で頭がいっぱいで、気付いたらもう4月13日だった。一昨日くらいに前回の原稿を出した気がしてた。なんてこった。お外がぽっかぽかだ。いつの間に。たぶんまた次に日にちを意識した時、日本は真夏だと思う。四季を感じながら丁寧な暮らしがしたいものです。
仕事が忙しい。と言っても、よく作家さんから聞くであろう「締め切りに追われる」という状況ではない。いくつか並行して作品に関わっているが、今いちばんガシガシ書いているとあるドラマの本作りは順調に進んでいる。情報解禁もまだなのでぼんやりとしか言えないけど、○月にクランクインして、△月に放送開始する連ドラ(全×話)が、4月13日時点で□話の初稿までできているのは上出来っぽい。人から早筆と言われることもあるが、実際そんなことはない。書くのが早いのではなく、書くための時間を十分に取っているだけ。朝から晩まで書いている。さらに極度の心配性なので、「締め切りに追われる」状況になるのが怖くてチャキチャキ書いているだけ。今のところ一度も言われたことはないが、スタッフに「まだ?」と言われる日が来たら……と想像するだけで手が震えてタイピングできずさらに原稿が遅れてまたまだ?って言われてああああああああああ、って感じだ。怖い。泣きそう。だから早く書く。
そんなわけで正確には「忙しいっちゃ忙しいけど追われているわけじゃなく自分で自分を追い込んでるだけでつまり精神的には超多忙」です。そんな超多忙な状況でも欠かさず楽しんでいるのがドラマと映画を観ること。「あれ観ました?」と聞きすぎて、仕事の関係者からは「寝てる?」と心配され、仕事の無関係者からは「暇なの?」と心配される。
連ドラに特化して話をしましょう。ドラマがだいすきな人間は、人生がとてもたのしい。年に4回も初回放送ラッシュがある。1月4月7月10月の3週目くらいまでがだいすきだ。これを書いているのがいつか、覚えていますか? そう、4月13日です! 今まさに春ドラマ放出のタイミングです。毎日がたのしい。ほぼ毎日新しいドラマがはじまる。幸せ。ってことをドラマプロデューサーに言ったら「良いお客さん」と言われた。どういたしまして。
連ドラの第1話は全部観る。NHKも民放もBSも、朝ドラもGP帯も深夜帯も、基本的に全部の1話を観る。できるだけリアタイ、難しいときは録画で観る。レコーダーの録画リストを眺める時点でもう幸せ。脚本の勉強のために観ているわけじゃない。書くのは仕事。観るのは趣味。
さすがにすべてのドラマを完走する時間はない。途中から観なくなるものもある。それでも不思議と、最後まで離脱しなかったすきなドラマの最終回より片っ端から全部観ている初回のほうがワクワクする。毎日なにか始まる!というその“時期”を楽しんでいるのかもしれない。1月4月7月10月というのが絶妙に良い。
4月のこのお外ぽかぽかになってきた時期。はじまりの季節。街にはどこか緊張した様子の人々が増える。お店に入ればメモを取っている新人さんがいて、コーヒーを出す手が震えている。ビルに入ればスーツの若者がぞろぞろとおじさんにくっついて歩いている。ヒールが足に馴染んでおらず、踵がパカパカしちゃってるのがかわいい。ちゃんと定時で上がれますようにと願う。コロナは落ち着いてきたけど、花粉は相変わらずで、マスクで顔が見えない人はまだまだ多い。半袖の人もいれば、上着がダウンのままの人もいる。朝晩は結局寒いし、ヒートテックや毛布を仕舞うタイミングが今年もわからない。街も、街ゆく人も、自分も、どこか全部が中途半端。それをぼんやり感じて、あー、今年も季節が巡ってる、と思う。春夏秋冬と季節は移り行くけど、一応春をはじまりにしているだけで、冬の次は春だ。夏秋冬春でもあるし、秋冬春夏でもある。巡っていく。
連ドラも「春ドラマ」と季節の名前をつかって表すことが多い。季節の感じ方は人それぞれだけど、わたしはドラマでそれを感じるし、感じられてうれしい。だからこそ、連ドラを書くときは放送時期の季節を意識してつくる。ドラマを観る人が、ドラマの中と同じ季節を生きているようにする。ドラマの中でも3ヶ月間を描くようにする。そうじゃない作品でおもしろいもの、すきなものもたっっっくさんあるけど、できるだけ自分はそこにこだわりたい。ひとつ前、1月クールでいちばんすきだったのは『春になったら』。タイトルからも、まさに1~3月に放送されるドラマだった。瞳やお父さんと共に、同じ3ヶ月を生きている気持ちだった。また来年の1月になったら見返したい。暑いなぁと思うと『すいか』が観たくなるように、季節といっしょに思い出すようなドラマをつくってみたい。
春ドラマがどんどんはじまっている。まだすべて出揃っていないけど、『季節のない街』がおもしろい。ほとんどの配信サイトに加入しているにも関わらず、ディズニープラスにだけは未加入。そして限定配信を知ったとき、加入しようか……どうしようか……いや、これはテレ東に来るぞ……? という勘が働いて加入しなかった(ごめんなさい)。『すべて忘れてしまうから』も最高でした。テレビ東京さん、いつもありがとうございます、だいすき。季節を感じづらいあの“街”でのお話。季節を気にしてドラマを観るからか、『季節のない街』というタイトルだけでギュッとなる。原作もあるが、宮藤官九郎さんが描く、平成~令和の空気を感じて、とても幸せです。が、未加入のため、4月13日のわたしはテレ東さんで放送された第2話までしか観れていない。連ドラの良さのひとつに「一週間待つこと」があると思うが、どうしよう、待てない。加入を検討している。『ガンニバル』も観たいし。
あぁ、忙しい。地上波も春ドラマが続々とはじまっているのに。あぁ、忙しい忙しい。ドラマがすきでよかった。毎日忙しくてたのしい。この忙しさだから、きっとすぐ夏になって、秋が一瞬で過ぎて、冬も来てしまう。また次の春が巡ってきたとき、この一年できっとたくさんのドラマと出会っているはず。春は出会いと別れと季節、なんてよく聞くけど、ドラマがすきな人間にとっては、夏も秋も冬も全部出会いばっかりだ。最終回を迎えても、登場人物たちは自分の中で生き続けるから、別れもない。ずーっと出会い。1月と、4月と、7月と、10月は、出会いの季節。