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TIMELESSPERSON

2023.10.17

生方美久が抱く想い「2作目の新ドラマとレンタルサービスについて」

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

写真協力/小林久井

あの棚に並ぶ『いちばんすきな花』が見たかった

渋谷のTSUTAYAがDVD・ CDのレンタルサービス終了を発表した。納得だけど悲しい。納得してしまうから虚しい。

群馬の田舎で生まれ育った。一応世界遺産とサファリパークがあるけど、こんにゃくパークのほうが人気の変な町で27歳10か月まで生きた。途中で何年か、新幹線も停まらないショボめの県庁所在地がある町で一人暮らしをしてたけど、ほとんどはこんにゃくパークがある町で生きた。

こんにゃくパークには一度も行ったことがないけど、地元のレンタルビデオ店にはよく行った。TSUTAYAでもゲオでもない。地元ローカルというやつなのか、たぶんチェーン店ではない。でも埼玉や栃木にはなんかありそうな気がする。そんなお店。そのレンタルビデオ屋さんは、本屋であり雑貨屋でもあった。「消しゴムを買う!」という小学生として真っ当な理由を持って入店し、『ちゃお』と『リボン』のどっちを買うか悩んだり、かわいい付箋を愛でたり、レンタルビデオの棚をぼんやりと眺めるのがすきだった。

小中学生の頃、もちろんサブスクなんてものはなかった。リアタイでドラマを観る家じゃなかったので、気になるドラマは録画をして観た。当時はダブル録画とか全部録りとかそんな優秀なレコーダーじゃなかったから、兄が録画したアニメにわたしの観たいドラマが上書きされる事件が度々あった。今のちびっこには「TVerで観ればいいじゃん」と言われてしまうのだろう。すごいよね、TVer。その頃からのクセなのか、これだけ配信でテレビ番組を観るのが当たり前の時代になっても、必ずテレビ画面でテレビを観るし、配信されるとわかっていても録画をする。リアタイなら視聴率、配信なら再生回数が作品の人気の指標になる。それがわかっているのに、この仕事をしているのに、録画でテレビを観るのがいちばんしっくりくる。最近はテレビがない家庭も多いようだけど、わたしは家電の中で冷蔵庫の次くらいにテレビが大事だ。そういえば、我が家には炊飯器がない。みんながスマホでテレビ番組を観るように、わたしはパックご飯をチンして食べている。

そんなわけで。ドラマ観るぞ~!とワクワクしてレコーダーを再生したら、知らんアニメが始まる……という悲惨な出来事があったとき、救いになるのがレンタルビデオだった。とはいえ、TVerみたいに同時配信とかじゃないから、レンタルが始まるまでの時差はえぐい。「ねぇ!ドラマ録れてないじゃん!!!」と何も悪くない母を責め立て、そんなことも忘れた頃にレンタルが始まる。母の会員証で母のお金でレンタルし、悠々自適なドラマライフを満喫し、「返しといて」と母に返却を押し付けるまでがセットだった。TVerは全国にいるわたしのような子供を持ってしまった母親たちを救っている。

自分で会員証をつくれる年齢になってからもレンタルにはお世話になった。DVDに限らず、CDもよく借りた。今もよく借りる。中学生のときからSONYのウォークマンユーザーなので、CDをパソコンに取り込んで、それをウォークマンに転送する、というなかなかめんどくさい作業をやっている。CDが買える余裕ができてからも、ちょっと気になるから聴いてみたいなぁ、くらいだとやっぱりレンタルがありがたい。

大学生のときはレンタルビデオ店でアルバイトをしていた。二十歳の誕生日をバイト中にその店で迎えた。たくさんの映画やドラマのDVDに囲まれて始まった20代。ラストイヤーに脚本家デビューできたのは、あのときの恩恵があったのかもしれない。ちなみにその店はバイトを辞めた直後に潰れて、跡地はゴルフ用品店になった。虚しすぎる。そんなこんなで30代になり、自身2作目となる連ドラが決まりました。10月からのフジテレビ木曜劇場をどうぞよろしくお願いいたします。がんばるぞ~。どんな視聴方法でもいいんです。一生懸命つくったドラマを観てもらえるだけでうれしい。リアタイでも録画でも配信でも、レンタルだって……レンタ、ル……そうでした、レンタルがなくなっちゃう話をしてるんでした(絶望)。あ、正確には宅配サービスは継続されるそうです……でもね、あの棚を眺めるのが楽しいんだよね……。

そのSHIBUYA TSUTAYAのニュースを聞いて、なんともいえない虚無感に襲われた直後のこと。昔の連ドラでどうしても観たいものがあり、配信サイトを探した。……どこにもない。配信されていない。こうなったとき開くのが、そう! TSUTAYAアプリ! 在庫検索ポチポチ。なんと、在庫がある店舗でいちばん家から近いのがSHIBUYA TSUTAYA! さすが! 初恋の人に会いに行くようなワクワク感を胸に、山手線に揺られた。すぐにお目当てのDVDを確保し、店内をウロウロ。テレビドラマのコーナーの棚を眺めていると、「すでにこんなにたくさんの素晴らしいドラマが存在しているのに、わたしがドラマをつくる意味なんてあるのだろうか」というネガティブと、「この素晴らしいドラマたちの仲間入りがしたい。誰かが手に取ってくれるドラマをつくりたい」というポジティブが喧嘩する。最終的に「あ、こんな時間。仕事しなきゃ」と思って、セルフレジでピッピとして店を出た。

今脚本を書いているドラマのDVDが、あの棚に並ぶことはない。どんなに大ヒットしても、視聴率が50%を超えたって、配信の再生回数が1億回を超えたって、それでもあの名作たちの仲間には入れない。時代は移り変わり、子供は大人になり、初恋の人にはいつか会えなくなる。そんな虚しさを胸に、山手線の逆回りに揺られた。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。2022年10月期の連続ドラマ「silent」の全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

EDIT=GINGER編集部

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