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TIMELESSPERSON

2024.01.05

生方美久が書く理由。「silent」「いちばんすきな花」を経て「この葛藤とは一生戦うんだと思う」

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

写真協力/Ryoko.S

「あなたはいない」と言われてみてほしい

映画やドラマの感想でよく聞く、「そんなやついない」という言葉についてずっと考えている。これが不思議で、そして怖くてたまらない。知らない人、身近にいない人、想像し得ない人を「いない」と決めつける。そこには疑問も悪気もない。

『愛にイナズマ』と『正欲』。最近観たこの二本の映画でも「そんなやついない」について語られていた。どちらも上映中は観入ってしまって涙一滴出なかったのに、映画館を出て新宿の臭くて汚い通りを歩いていたらボロボロと泣けてきてしまった。幽霊とか宇宙人とかの話で、「いない」を証明するのは難しいとよく聞く。「いる」の証明もなかなか難しい。こんな人がいます、と提示したところで、「いない」の一言で存在ごと消されてしまう。「いない」の証明だってできないはずなのに。

前回の木皿泉さんについて語ったエッセイ、反響が多くて驚いた。木皿さんが作品のなかでいつも提示してくれるのは「いてよし」だ。自分の存在価値がわからなくなったとき、浅丘ルリ子さんの声で「いてよし」を聴く。それだけで救われることがある。自分はいていい。自分という存在のまま、いていい。いていいはずなのに。

脚本を担当したドラマの一話で、中途失聴者の青年が日本手話を使うシーンがあった。するとたちまち「手話を使う中途失聴者はいません」「彼は発声するはずです」「日本語対応手話では?」というご指摘がたくさんあった。それらはみんな“数”の話で、佐倉想くんという“個”の話じゃなかった。実際にいる(手話監修をしてくださった方もその一人)、日本手話を使う中途失聴者を「いない」ことにされるのが、たまらなく悔しかった。誤解を招かないよう、数が多いのはどんな人かという説明をしてくれた方たちには深く感謝している。手話を使わない中途失聴者はたくさんいる。ただ、想くんのような人間を、存在する人のことを、「そんなやついない」と言い切ることだけは許せなかった。その人たちの生き様を否定されたようで、やるせなかった。そして、これからも、しつこく、何度でも、「そんなやついない」と言われてしまう「少ないけどいる人」を描こうと思った。

案の定、『いちばんすきな花』で描いた4人の主人公についても「そんなやついない」と言われた。そして「自分のことを描いてくれてありがとう」とも言われた。4人それぞれ全員にそう言ってくれる人がいた。ゆくえも椿も夜々も紅葉も、そしてわたしも救われた。その人たちのためにドラマをつくっている。「そんなやついない」と言われることに怯えて自分を隠して生きている人が、ドラマを観て「自分以外にもいた」「自分もいていい」と思ってくれたら、それでいい。

映画やドラマの感想で、【共感】という言葉がよく使われる。みんな良い意味で「主人公に共感しました!」という使い方をする。宣伝文句として「SNSで共感の声多数!」とかもよく見る。でも、極端なことを言ってしまえば、「共感した」という感想は少なければ少ないほど価値があるはず。今まで誰も触れてくれなかったことや、自分だけだと思って閉じこめていたこと。それらを描くことに意味があると思う。100人が観て、100人が「共感した!」というドラマの【共感】はきっとありきたりでありふれたもの。100人が観て、99人が「なにそれ(笑)」となったとしても、残りの1人が「やっと自分の気持ちを描いてくれた」と思ってくれたらいい。そのひとりを救いたい。……とはいっても、テレビドラマである以上、1/100の共感しか得られないものをつくるわけにもいかない。この葛藤とは一生戦うんだと思う。【共感できる】=【良い作品】という指標が、たまらなく怖い。共感し得ない「知らなかった人」こそ、知ってほしいのに。

それでも、これからも絶対に「そんなやついない」と言われてしまう「いる人」を描き続けたい。『愛にイナズマ』と『正欲』を観て、腹が据わった。実際にいた人を映画の中で描いたのに「そんな人いないでしょ? 人間をよく見て?」とプロデューサーに言われてしまった映画監督。自分と大切な人のなかに確かにある感覚を「あり得ない」と他人に言われた夫婦(という形を選択した男女)。彼ら自身も、彼らが見た人も、いる。いるのに、彼らをいないと決めつける他人が、いつだって、いる。

テレビを見てても、ネットを見てても、毎日イヤでも思う。「こんな事件あり得る?」「なんでそんな事故が起きるの?」って、ほんとイヤになるくらい。でもあり得ちゃうんだよ。あり得ないって思うような事件は起こるし、あり得ないような人がいる。少ないだけで、いる。

ちょっと調べてみたけど、幽霊も宇宙人も、やっぱり「いない」の証明は難しいらしい。物理的になんたら、化学的になんたら、みたいなのはいろいろあるけど、「見た!」と言っている人を嘘つきって決めつけることもできないしね。だよね。見たことないから「宇宙人はいません!」なんて言い切ったら、宇宙人さん怒ると思うな。怒って地球襲撃されちゃうんじゃないかな。僕たちいますけど??って。幽霊さんだってさ、勝手にいないことにされたら、お前ら生きてるからって調子乗んなよ??って思うんじゃないかな。呪われそうだよね。なんでもいいけど。全然良くないけど。幽霊や宇宙人に例えるもの失礼だけど。いや失礼って思うことが幽霊や宇宙人に失礼かもだけど。とりあえず、『愛にイナズマ』と『正欲』を観に行ってください。感想を聞かせてください。共感した? それとも、そんなやついない?

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」の全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

EDIT=GINGER編集部

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