日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第59回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その59『大丈夫 2』
数年前、この連載内でも触れた「大丈夫という言葉の使い方があんまり大丈夫ではない(広い意味を持たされすぎている)問題」。先日とあるスーパーマーケットのスタッフ殿たちが話している内容を耳にして、「これは本当に大丈夫じゃない問題だ」と実感した。盗み聞きは良くないが、レジ付近で青年スタッフたちが小さめの声で話しており、私は彼らの死角になるような場所でめんつゆを選んでいた。めんつゆはその日どうしても必要だったため、めんつゆを選ぶ私と意見交換をするスタッフ同士がたまたま同じ空間にいただけで、「避けられない状況」に遭遇したと釈明しておく。インサイダー取引容疑に問われ、聞いちゃったと言えば聞いちゃった、と発言したとあるファンドの代表をふと思い出した。だって、聞こえたんですもの。
意見交換風景をかいつまんで描写すると「レジ袋いりますか?」「大丈夫です」、「袋はどうされますか?」「大丈夫です」、「袋おつけしますか?」「大丈夫です」…この「大丈夫です」って何だ!? いるの? いらないの? 対処に困る、という内容がメインだった。青年たちはこの「大丈夫です」にずいぶんと振り回されているらしい。しかも世代性別を問わず言われるという。必要か必要じゃないかを聞かれての「大丈夫」は恐らくいらないと言いたいのだろうが、あまりにも遠回しすぎやしないだろうか。「下さい」または「いらないです」と言ったところでトラブルにはなるまい。何故「大丈夫」を使ってしまうのか。ここ最近広い意味を持たされすぎ&あちこちのシーンにて使われすぎた大丈夫が脳にこびりつき、反射のように口から出ている可能性が高い。だが、YES/NOのNOを大丈夫が丁寧に表現しているとは思えない。
ちなみに私は、可能な限り「袋あります」もしくは「袋下さい」と言うようにしている。場所によっては「袋必要」と記されたカードをレジ脇から取って提示したり、レジの横に袋の有無を指さすだけで分かるボードが様々な国の言語で書かれてセットされていたり、どんな境遇の方々にもできるだけスムーズに表現してもらえるような工夫も見られる。袋がいるかいらないか言える私は、店に敬意を持って然るべき表現をしたい。