日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第6回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その6『大丈夫』
「美丈夫(びじょうふ)」という言葉をご存じだろうか。昔の中国で使われていた、「見目麗しき男性」のことをあらわす言葉だ。今でいう「イケメン」「二枚目」「男前」や「ハンサム」といった感じだろうか。かつて丈夫というのは男性を意味し、「大丈夫」というのは立派な男性、強い男性をあらわす言葉だった。調べてみると日本にも当初はその意味が伝わってきたようだが、徐々に変化していき、立派な男性から「大変強い」「非常にしっかりしている」となり、現在は「間違いない」「確かだ」などと解釈されることが多い。励ましや応援、期待の意味もある。
しかしこの大丈夫、最近では肯定と否定、両方の意味を託されているような気がする。例えば「明日一緒に行かない?」と誘って「大丈夫です」と返ってくる。誘った側は「ん? 明日一緒に行く予定を共有できるという意味での大丈夫か? はたまた『一人で行くから一緒はご遠慮します』の意味の大丈夫か?」と困惑する。この雰囲気だけで察知するなら「一緒に行く」の線は20%、「一緒に行かない」の線は80%だと私は踏む。誘われて大丈夫と返すのは、やんわり断る意味を含む傾向にあると普段の生活や会話で感じているからだ。「行かない?」「食べない?」「~してあげようか?」等の誘いに「大丈夫です」の返答は一見丁寧に感じるかもしれないし、私も時々「結構です」と言うのが否定っぽいなと感じて使ってしまう。これが受け取り手の困惑に繋がるとも知らずに・・・。
中途半端な優しさや丁寧さは余計に相手を傷つける。大丈夫と答えて先程の20%の方の解釈をされたらお互いに寂しい。ここは多少長くなってしまっても、「寄る場所がありまして、一人で参ります。現地でお会いしましょう」「申し訳ありません、どうしても苦手なものでして・・・」「ありがとうございます。最悪~な状況になったら助けてもらえませんか?」などの誘いを断った申し訳なさと事情説明の合わせ技でお断りムードを和ませたい。