日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第52回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その52 『さもありなん』
企業の危機を救うべく海の向こうからやって来たとある豪腕経営者は、我が国でお金に関する罪に問われ軟禁状態にあった。逃亡は不可能かと思いきや…これまた海の向こうからやって来た頭の切れる共犯者の知恵を借り、楽器のケースに身を忍ばせ、国外に逃避行を果たした。そして、「私は今レバノンにいる」と声明を出す。犯罪行為ではあるが、「私は今レバノンにいる」に敵うような圧倒的ドヤ顔で言える台詞ってあんまり無いだろうな…と感心してしまったのを覚えている。「あちらのお客様からです」とか「話は聞かせてもらったわ」ぐらいではドヤ顔なレバノンには及ばないだろう。
そんなことをぼんやり考えていたときだった。互角の勝負とまではいかないかもしれないが、先日たまたま「これはドヤ顔で言えそうだ」とピンと来た言葉に出合う。「さもありなん」だ。
さもありなんは「さもあることと皆人申す」が語源とされ、さもあることと皆~の状態では平安時代から使われていたという。意味は「ごもっとも」「その通り」「そうであるだろう」などの結果に対する感想。どちらかといえば「まあ、そうなるだろうとは思ったけどね、私は」とちょっとネガティブな「やっぱりね」感を醸し出す言葉として使われてきた。
勿論「あの方が大会で良い成績をとったのは、日々の鍛錬を見ていればさもありなん」と褒める使い方も間違いではない。しかし、今のさもありなん風潮だと「あんなぞんざいな扱いをしていたから器機が壊れたのもさもありなん」という「あーあ、言わんこっちゃない」な雰囲気として使われる割合が多いという。
しかし、書いておいてなんだが…さもありなんを使うタイミングはいまだに掴めないというのも正直なところだ。さもありなんの存在や意味はそれほど浸透していないように感じる。言ったところで「さもありなん、って?」と聞かれたらドヤ顔で使った自分が説明することになる。恥ずかしい。これはかなり恥ずかしい。
「さもありなん」をベストコンディションで使ったことがある読者の方がいたら、ご一報いただきたい。
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