日ごろから“言葉”についてあれこれと思いを巡らせている壇蜜さんの連載『今更言葉で、イマをサラッと』第11回目。言葉選びと言葉遣いが、深く、楽しくなる。そして役に立つお話。どうぞお楽しみください!
その11『やはり』
後から思い返すと無意識にたくさん使ってしまっていたものといえば・・・お金、ティッシュペーパー、水などなどいろいろあるだろうが、私は「やはり」「やっぱり」という言葉を連想する。自分の推測していたことと実際に起こったこととの違いが生じていない、つまり「予想通り」の際に使用される言葉としてはかなり使用頻度が高いだろう。「やはりあの店は有名だった(想像通り有名店)」「私も母もやっぱり生き物が好きだった(予想通り生き物好き)」「そうですか、やはりここを出ていかれますか(予感通り立ち去る)」・・・やはり、はあちこちの推測と現実を結んでいる。
一方で、予想していたネガティブな事柄をさらにネガティブにしてしまう威力もある。「あなたはやはり間違えた選択をしたのですね」「やっぱり君には荷が重かったようだ」「やはり、了承は得られませんでしたか・・・」・・・このようなつなぎ方をすると、たちまち相手の力量に期待していなかったり、能力を軽んじていたことが裏付けされてしまう。「まぁ、想定はしていたけど、あなたのせいでネガティブな結果になったよね」という責め文句のようなムードが伝われば、当然相手もいい気持ちはしない。私も「やっぱり君は僕がいなくてもいいんだよね」と言われて否定をしなかったせいでプチ修羅場になったことはあるが。「やはり&やっぱり」にくっつける言葉は吟味しておいて損はないだろう。
ちなみにこの「やはり」。「矢張り(元は「矢割り」。石を割る手法のひとつ)」というのは当て字のようだ。諸説あるが、古語である「やはやは」「やはら」という「柔らかさ」を表現する言葉が「静かな状態。動かない状態」という意味に変化して、「予想と事実が揺らがない」意味の「やはり」につながり、くだけて「やっぱり」が誕生した・・・という説が有力だという。当て字の背景もあるので、「やはり」を表すときはひらがな表記のほうが伝わりやすそうだ。会話の最中も、使いすぎに注意したい、やっぱりやっぱり言っていると、予想と事実の正解率を誇りすぎる者に見られかねない。