さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第42回「ありがと、めるし、さんきゅ」

9月初旬、フランスから友人の息子(21歳)とそのガールフレンド(20歳)が日本に遊びに来ていたので、夕飯(焼肉)を共にした。
2人とも本当に利発で礼儀正しく、けれど眩しい若さがピカピカ煌めいていて、それはそれは有意義な時間だった。
私は、同じ事務所の後輩と過ごす機会が多いため、この年になっても、10代20代の若者と会話するのが全然苦ではないし、むしろ好き。
だがしかし、問題は言語である。
フランスから来ている2人はフランス語がもちろん1番得意で、彼氏はフランス語と日本語と英語が話せるが、多々理解できない日本語もある。彼女は、日本語がほぼ話せず、フランス語と英語のみ。よって、彼らとの会話は主に英語を使っていた。
約8年間アメリカ生活をしていた私は英語での会話に何の問題もないと思っていたのだが、彼らと会話をしているうちに雲行きが怪しくなってきた。
徐々に脳と口が疲れてきたのである。
彼らの言っていることは全て理解できるし、自分の言いたいことも全て英語で言える。しかし次第になんだかたどたどしくなっていく。特にLとRとFとVとTHの入った単語を発音をするたびに、舌と歯がどうにかなってしまうのではないか?というくらい話しづらい。あれっ、英語が…面倒?
アメリカに住んでいる頃、英語力を磨きたかった私は、日本人とはつるまずにアメリカ人や他の外国人の友達とばかり遊んでいた。
とても仲の良いアメリカ人の友達に「You have a thick accent that I can cut with a knife(あなたの英語にはナイフで切れるくらい分厚い訛りがある)」といつも言われていたが、そのジョークを自分でも使いまくって、逆に周りのネイティブスピーカーたちの笑いを取るくらいには、会話に困らなかった(そう…この頃から私は自虐ネタを武器にしていたのである)。
脳内で日本語→英語に変換して話すということもなく、すらすらと英語が出てきていた。
アメリカ生活を終えて、帰国してからは通訳や翻訳のアルバイトの需要がわんさかあったし、それらをそつなくこなしていた(はず)。
しかし…改めて振り返ってみてびっくりしたのだが、私が8年間のアメリカ生活を終え、日本に帰ってきてから既に30年以上が経っているではないか。そりゃ衰えるわな。
今の私の日常で英語を使う機会などほぼない。幼稚園で英語を習っているピチャオと一緒に子供向けの英語の宿題をやるくらい。
しかも、20代と30代、私の趣味は海外へのひとり旅だったのに、40代は仕事が忙しすぎてプライベートで海外に行っている暇などほとんどなかったし、50代になったら、何時間も飛行機に乗って旅するなんてもう考えただけで億劫(私は飛行機が苦手です)。結果、ますます英語力は錆びていくばかり。
長年の私の座右の銘、「継続は力なり」がピキピキとひび割れ始めました。
そんなこんなで、フランスからやってきていた若いカップルとの夕飯が終盤に差し掛かる頃には、私が日本語で話して、彼氏が彼女にフランス語に訳す会話形式になってしまっていた。
しまいには焼肉のフルコースを食べる彼らに「食いな食いな! たらふく食いな!」と、英語など全くわからないどこぞのオッチャンみたいな口ぶりでこれでもかと追加注文をすすめるありさま。
「すごく楽しかった。また日本に来たら絶対に会ってね。いつでもフランスに来てね」などと殊勝なことを名残り惜しそうに2人がいってくれなかったら、私は自分のふがいなさに後々落ち込んでいたに違いない。
さて、無事にフランスに帰国した彼からメールが来た。そのメールは「パリは昼間でも気温が15℃で長袖を着ているよ。彼女も元気だよ」と日本語で書かれていた。翻訳アプリを使ったにしても…、私の英語力への信頼度がだだ下がりしたことは火を見るより明らかだったのである。
What I saw~今月のオフショット

ドラマに映画にまさかのオペラ(平家物語-平清盛-)に、快進撃が止まらない八木勇征(FANTASTICS)。この人のどこが好きって、めんどくさくないところ。いつだって明るい笑顔を見せてくれるから心配にもなるが、とにかく清々しいし、びっくりするほど優しい。ついでにいうと、会うたびに背が伸びているような気がする。まだまだ育ち盛りか?

先月に引き続き、コミュ力最強の砂田将宏(BALLISTIK BOYZ)。少年時代をニューヨークで過ごしていた将宏の英語力は、私のとは違い、衰え知らずでキラキラ流暢。激しく嫉妬。偶然にも将宏がこの日着ていたTシャツは我が家の断捨離の際にあげたもの。
勇征と将宏が絶対に好きであろう激旨の焼肉屋を見つけたので、今年中に3人で行きたい。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、中島美嘉、小泉今日子など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。