さまざまな経験、体験をしてきた作詞家 小竹正人さんのGINGER WEB連載。豊富なキャリアを通して、今だからわかったこと、気付いたこと、そして身の回りに起きた出来事をここだけに綴っていきます。【連載/小竹正人の『泥の舟を漕いできました』】
第37回「まさか町田啓太で泣くとは思わなかった」

俳優・町田啓太との話。
2010年に行われた「劇団EXILEオーディション」に彼が合格してからの付き合いなので、もう15年にもなる。15年も同じスタンスでずっと仲のいい後輩って私にはそう多くない。
出会ったときから、「こんなに性格がいい人間がいるわけがない」と疑いたくなるほどいいヤツすぎて、私は「いつか本性を見抜いてやる」などと思いながら彼に毒を吐きまくったものだが、もう、どっからどう接しても礼儀正しく優しい啓太。私は啓太に嫌な気持ちにさせられたことがただの一度もない。
とにかく、こちらがせつなくなるくらい我慢強いし、何をやっても品があるし(私にとって人間関係において最重要点)、空気をちゃんと読めるし(これまた重要)、どんなときでもちょっと寂しそうだし(ほめてます)、本気で笑った顔には邪気がまったくないし、もう「人として綺麗」としかいいようがない。褒めすぎか? しかし天の邪鬼な私はその綺麗さが羨ましくて仕方がない。
10年近く前、HIROさんと共に啓太の誕生日を祝ったことがある。そのときに私は啓太にリュックをプレゼントした。啓太に似合いそうだと思い、なんとなく買ってなんとなくプレゼントしたものだが、啓太はそれを何年もずっと大事に使い続けてくれたそうだ(何かの記事でそのことを偶然知った私)。
啓太はきっと、辛さとか我慢とか悔しさとか、他人に見せないたくさんの感情をそのリュックに詰め込んで毎日を過ごしながら、俳優という職業に真摯に向き合い続けた。そして、不要になったものを少しずつ捨てて本当に大切なものだけを残した。リュックはボロボロになり、けれどとても軽くなり、役目を終えた。
夢と希望しか食べていなかった若者はそのリュックを手放して、多くの人に支持される俳優になった。
彼は昔から「変わらない」のではなく、努力をまわりに気取られることなく「きちんと変わった」からこそ、今の町田啓太になった。人として綺麗なままでそうなったのが彼の凄いところだ。
啓太がNHKの朝ドラや大河への出演が決まったとき、初めて大企業のCMに抜擢されたとき、初めて単独でゴールデン枠の主役を張ることになったとき、その姿を見るたびに私は感無量になり、思いもよらずひとりテレビの前で涙ぐんだ。無名で不遇なときを知っていたからこそ「まさか啓太で泣くとは思わなかった」と思いつつも泣いた。恥ずかしかったのでそれを啓太には決して言わなかった。
この春、啓太が主演するテレビ東京系ドラマ9「失踪人捜索班 消えた真実」がスタートした。そして、THE JET BOY BANGERZが担当するこのドラマ主題歌の作詞を私がさせていただくことになった。町田啓太主演ドラマの主題歌の作詞をする日が来るなんて。何十年も作詞家を続けていると、たまにこういうグッとくる、懐かしい過去が輝かしい未来に繋がるような仕事が舞い込んでくる。
15年前にタイムスリップして、まだ何者でもなかった啓太に、「啓太主演のドラマ主題歌の歌詞を私が書かせてもらえる日がくるよ」と教えに行きたい。
企画書と1話の台本を読んで、ドラマのエンディングにそぐうように作詞したつもりだが、書いている間中、私の頭の片隅には常にこの15年間の啓太との思い出が浮かんでいた。だからこの主題歌のタイトルと歌い出しが「まさか泣くとは思わなかった」になってしまった。
こじつけのようだが、ほんとの話。
「まさか泣くとは思わなかった」は私の中では「まさか町田啓太で泣くとは思わなかった」なのである。
公私混同きわまりない作詞家。私がプロとしてちょっと残念なのはこういうところなんだろうが、公私混同してこその作詞家、それが私の強みだと開き直って、作詞家としての余生を楽しみたい。
そんなことを思った2025年の春です。
What I saw~今月のオフショット

昔は絶対に夕飯→飲酒だったのだが、今はほぼ昼間にしか会わない。私はここ数年、ノンアルコールでも会話がポンポン弾む人としか会いません。啓太と一緒に韓国へ行く約束もしているのだが、なかなかスケジュールが合わず。

これが、約10年前にHIROさんと共に啓太の誕生日を祝ったとき。この画像を啓太に見せたら、「こんなに盛大に祝ってもらえて幸せ者ですね、こいつ」と言っていた。いい歳の取り方をしたかどうかは、その人の顔に顕著に表れますね。
小竹正人(おだけまさと)
作詞家。新潟県出身。EXILE、三代目J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBE、E-girls、小泉今日子、中山美穂、中島美嘉など、多数のメジャーアーティストに詞を提供している。著書に『空に住む』『三角のオーロラ』(ともに講談社)、『あの日、あの曲、あの人は』(幻冬舎)、『ラウンドトリップ 往復書簡(共著・片寄涼太)』(新潮社)がある。