映画『火喰鳥を、喰う』が10月3日(金)より公開。横溝正史ミステリ&ホラー大賞大賞受賞作の映像化、そして最旬豪華キャストが共演するとあって、注目が集まる作品。夏の終わりをゾクっと締めてくれる、先読み不能ミステリーをたんと召し上がれ。
怪異か罠か。喰うか喰われるか——。

水上恒司さん、山下美月さん、宮舘涼太さん(Snow Man)。いまをときめく人気者が集結し、劇場を恐怖に陥れる――。映画『火喰鳥を、喰う』は、令和初の横溝正史ミステリ&ホラー大賞にて、大賞を受賞した同名小説(原浩著/角川ホラー文庫刊)を映像化。物語は、久喜家の先祖の死を巡ることに始り、いずれ謎と怪異が交差する、まさに先読み不能ミステリー。墓石の損壊、祖父の失踪…一家を揺るがす不可解な出来事を目撃する。
水上さんが演じるのは、主人公・久喜雄司。水上さんは「その世代の若者がどんな人間なのかを具現化する」ことを常に意識したという。
「雄司は27歳という設定で、僕とほぼ同世代。僕たちが小学校高学年のときにスマートフォンが発売されたので、今の子どもたちほど、インターネットが身近ではなかったし、怪異や妖怪など、目に見えないものを信じていた世代だったと思うんです。そんな幼少期を過ごしながらも、発展した現代に『そんなことありえない』と思うのが雄司。大学で化学の助教をしていて、理論的に説明できることしか信じられないというのが雄司の特徴なんですが、そういう人間が超常現象と対峙したときにどんな反応をするのかっていうことはすごく考えていました」
水上さんは「そういうものはあったら面白いなと思う」と続ける。
「福岡で生まれ育った僕でさえ、『怪奇現象はあるんだろうか』と思うんだから、土俗的な雰囲気を知らずに育った人たちって信じられるんでしょうかね。でも僕は、あったら面白いなと思うし、それはきっと心のどこかで望んでいるということかもしれない。そういう感覚があったから、雄司に向き合えたと思います」
そんな雄司のキャラクターは水上さん曰く、野球のキャッチャーなのだそう。
「雄司は主人公であるけれども、受けて、受けて、反応していく受動的な人物。周りのキャラクター性を立たせるために“受ける”主人公だと思いました。だからこそ、雄司の穏やかで優しい性格は圧を出さないことを意識しました。前の作品が男くさい体の大きい役柄だったので、筋トレをやめて見た目的にも小さくしましたし、言葉の端々にトゲがないように、攻撃的にならないようにというのは意識したことかもしれません」
作品を背負う立場として

水上さんは意外にも本作が初の単独映画主演となるが、座長となってもその在り方は変わらない。
「主演だとしても脇だとしても、僕の振る舞いは変えたつもりはないです。これまでたくさんの座長の方々を見てきて、『マネしたいな』とか『これは良くないんじゃないか』と思うこともありますが、それはあくまでも僕の価値観でしかない。すべては良い作品にするためにできることをやれたのではないかと思います」
一方で、座長としての喜びも口にする。それは試写室で完成を観たときだった。
「一緒に完成を観たキャストやスタッフさんたちが口を揃えて『面白い』と言ってくれました。そういう場で『面白くなかった』なんて言う勇気がある人はなかなかいないですし、おべっかである可能性は否めませんけど(笑)。みんなで『面白かったね』と、ニコニコケタケタ笑いながら、いろんな感想を述べあう瞬間はすごく幸せでした。みんなで話していたのは『狂っている』ということ。たとえば、序盤にカメラマンの玄田さん(役/カトウシンスケさん)が急にスイカを食べ始めるシーンがあるんですが、あの場では理解できない行動なんですよ。それくらい、『ヒクイドリ、クイタイ』という死者の日記に魅せられて、エネルギーを吸い取られていくような描写のひとつになっているのかなと思います」
そして、そんな異質さは共演する山下さん、宮舘さんからも醸し出される。
「僕とはまったく違う畑で経験してきた人間同士が、こうして集まってひとつの空間を表現していくっていうのは、まさに登場人物たちと重なる部分があるなと思いました。山下さんは妻の夕里子を演じているんですが、東京から嫁いできた女性の、田舎への馴染めなさはすごく表現されていて面白いなと思いました。舘さんは超常現象専門家というところで…いまだに超常現象専門家がよくわからないんですが(笑)。久喜家が健全な細胞だとすると、舘さんが演じる北斗はウイルス。じわじわと侵食してくるような入り込み方ってすごく難しいことだと思いますが、それも舘さんの良い意味での“普通じゃなさ”が表現されたんだと思います」
“執着”を受け入れるという選択

映画やドラマ、出演作が途切れない水上さんが昨年から始めたこと、それは現場に台本を持ち込まないのだという。
「『考えるな、感じろ』という言葉がありますが、僕にはまだ難しいなと思うんです。一人芝居だったらいいのかもしれないけれど、お相手の演者の方がいて、カメラがあって、その向こうにはお客さんがいる。どうしても意識してしまうんですよね。だから、現場ですべてを感じるために、台本を頭のなかに入れるということを始めました。覚えたものを現場で表現する、自分の身を置いていくってことをやりたいんです」
過去のインタビューで、「複雑性を大事にしている」と語った水上さん。今作にも表現されているのだろうか。
「雄司のリアクションです。たとえばこうしてお話ししていて、ポジティブな内容なのに、あえてクールに言うとか、人って自分をどう見せたいかによって無意識にフィルターをかけていると思うんですよ。悲しんでいるから悲しい、のではなく、感情のフィルターの部分を常に考えていました」
壮絶な戦地で死した者の生への執着が現実を侵食していくストーリー。キーワードでもあるこの“執着”をどう捉えているのだろうか。
「執着って、誰もが持っている感情ですよね。欲望的で、本能的で、感情的で、それに飲み込まれて支配されている人が大半だと思うんですよ。自分を律して、やるべきことや役目を遂行できる人間って少ないと思うんですね。だからこそ、今作のような、欲望にまみれた弱い人間の様が、人の心を打っていくはず。僕だって、役者として“自分をよく見せたい”という執着が捨てきれないですし。
でも、僕はそういう心を絶対に塞いではいけないなと思っているんです。醜い自分に気づく瞬間って嫌な気持ちになるんですが、そういう気持ちを大事にしないと太刀打ちできない役やシーンがあるんですよね。執着している自分を、俯瞰で見て寄り添ってあげる。そうして自分をコントロールしています」
最後に、この作品が醸し出す怪異の正体を語ってくれた。
「この作品は、明確に表現していなかったり説明していない部分があったりするんです。“分かりやすさ”や“簡潔さ”を求められている今の時代、本作が観てくださる方にどういうふうに届くのかは僕の道であり、興味深い部分です。お客さんたちに考える余白を与えられる作品になっていると思うので、みなさんの感想が楽しみです」
【10月3日(金)公開】映画『火喰鳥を、喰う』

出演/水上恒司、山下美月、森田望智、吉澤健、豊田裕大、麻生祐未/宮舘涼太(Snow Man)
監督/本木克英
脚本/林民夫
原作/原浩「火喰鳥を、喰う」(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
配給/KADOKAWA、ギャガ
※10月3日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
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水上恒司(みずかみこうし)
1999年5月12日生まれ、福岡県出身。2018年、ドラマ「中学聖日記」で俳優デビュー。映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。その他の出演作に、映画『弥生、三月-君を愛した30年-』(20)、『望み』(20)、「⻘天を衝け」(21)、『死刑にいたる病』(22)、「真夏のシンデレラ」(23)、『OUT』(23)、「ブギウギ」(24)、『八犬伝』(24)などがある。12月に『WIND BREAKER/ウィンドブレイカー』が公開予定。
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