令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
致死量の平成にいなかった音楽

こんにちは。こちらは1993年・平成5年生まれ。流行りの平成一桁ガチババアど真ん中です。幼女時代のお気に入りコンテンツの話でもしようかと思いましたが、この話題で混沌としたネットがあまりにも“ネット”だったので、ORANGE RANGEの話じゃなくてARTーSCHOOLの話をします。
ある日、ぽろんと届いた一通のメールに「ART-SCHOOL」の文字があって慌てふためきました。ほんとに慌てふためいて、わたしのアート偏愛の強さを知っている友人にスクショを送りました(ダメです)。友人からは「成功したオタク」「推しと仕事で繋がるってやつだ」などと言われ、これが推しと仕事で繋がるってやつかー! となりました。
メールの内容は、ART-SCHOOL結成25周年へのお祝いコメントの依頼でした。やっぱすきなものは「すきだ」と言っておくもんですね。ありがとうございます。おめでとうございます。生きる意味です。ありがとうございます!!
脚本家を目指してフリーターをしていた頃のこと。群馬県にあるシネマテークたかさきというミニシアターでアルバイトをしていました。まだ次の上映まで時間があり一人で受付にいたとき、おそらく20代と思わしき男性がお一人で来館されました。チケットの購入を希望されたので、座席指定をご案内し、お会計を済ませました。
その間、わたしはずっと高揚していました。彼が肩にかけているトートバッグがアートのグッズ、しかもわたしが持っているものと同じだったのです。お会計まで済ませたわたしは勇気をぎゅぎゅっと振り絞ります。
「それ、アートのグッズですよね? わたしも持ってます」
高揚感を程よく抑え、良い感じに爽やかに言えました。彼はずっと少しだけ俯いていた顔をほんのりとトートバッグへと向け、言いました。
「あ……あぁ」
くぅ……ッ! これでこそART-SCHOOLのファン………………ッ!(脳内ガッツポーズ)
もしも彼の反応が「えッ!? おねえさんもアート好きなんでっか!? ちゃっす!!」みたいな感じだったら—————わたしは彼からトートバッグを奪い取り、まるで配達中のピザ(隠語)のように橋の上から川に向かって投げ捨てていたでしょう。彼はまだ高崎にいるのかなぁ。まだアートがすきかなぁ。同じライブを観てたかもなぁ。
数年前、アートのライブ後のこと。駅へ向かい歩いていると、近くに男性二人組がいました。(わたしは当然一人です)。お二人とも服装と会話からして同じライブに行っていたようです。ひとしきり本日のライブが如何によかったかを語ったのち、
男性A「なんかさぁ、二十歳くらいの若いバンドも出てきたりしてさぁ」
男性B「うんうん」
男性A「すげぇ上手いしさぁ、かっこいいんだけどさぁ、てか普通に聴くし」
男性B「うんうん」
男性A「でもなんか……やっぱ……」
男性B「帰ってくるところアートだよな」
男性A「それ!!」
参加しようかと思いましたが根暗なので聞き耳だけ立てました。良い会話。Aの方が割とガ―ッとしゃべって、Bの方がふんふんと聞き手に回っている感じだったのですが、
「帰ってくるところアートだよな」
あんましゃべんないやつがふいに良いこと言うのずるい。脚本家としても勉強になりました。

このときは当然のように一人でしたが、わたしにもアートを愛する友人がちゃんとおります。高校時代に知り合ったとある友人とは頻繁にライブハウスで遭遇しました。高崎club FLEEZに(半数が元アートでお馴染みの)ストレイテナーのライブに行ったらその子もいて、二人して同じキノシタナイトのTシャツを着ていたときはさすがに笑いました。最近は、アートはもちろんザゼンの武道館でも遭遇。もう大人なのにね。
先日のリキッドワンマンがあまりにもよかった。最高を更新しすぎている。ずっとすきなのに、今がいちばんすき。続けてくれてありがとう……。アートのファンたちはこの感情になったとき、「トディありがとう……」と重めに言います。
昨年の戸高さん加入20周年ツアーは行けなかったんです。東京公演が7月(執筆した月9ドラマの脱稿前)だったので、絶対忙しいよなぁとびびってチケットを取らなかった。で、公演終了後にネットでライブレポとかセトリとか見るじゃないですか。そしたら『クオークの庭』やってて発狂しましたね。なんで行かなかったんだ…………初稿は全話そろってたんだからさ、一晩くらい姿暗ましたって、現場からの電話LINEメール全シカトしたってどうとでもなっただろうに…………………。来年、戸高さん加入22周年ツアーやってください。日本の隅から隅まで行きます。
そんなふうにタイミングの悪さに泣くこともありますが。はじめてライブに行った16歳のときから、ずーっとアートのライブに通い続けています。他にもすきなバンドはたくさんいますが、ライブを観た数はアートがずば抜けて多い。その都度最高を更新し続けているのでほんとうにかっこいいし、一生ついていくし、一生音楽やっててほしいし、そうでなくてもアートに関わるすべての人がしあわせであってほしい。愛です。
愛ってこの感覚なんだなと思います。ドラマのファンの方からいただくお手紙やメッセージにも、「次回作を楽しみにしています。でも無理はせず、お体と心を優先して自分のペースでお仕事してください。」といったことが、ほんとによく書かれていて。脱水になるくらい泣きながら読むんですけど。こんなひよっこ脚本家のお体と心を心配してくださるんですか……愛……………。今まさにお体と心がぶっ壊れそうなくらいお仕事詰め詰め期間なので、なんとかします。とりあえず死ぬほど忙しくてもライブには行きます。過剰摂取します。用法容量守りません。浴びるように聴き、踊ります。アートに致死量はない。
死なないための音楽だから。
高校一年生のときにアルバム『14SOULS』でアートに初めて触れられたことを考えると、平成一桁ガチババア世代でよかった☆という気持ちです。思春期に受け取った音楽の鮮やかさは一生もの。小学生のとき、給食の時間は延々とアジカンの『リライト』が流れてましたからね。今回のトリビュートは参加アーティストも選曲もほんとに感謝と愛しかない。
ORANGE RANGEも聴いてましたよ、もちろん。平成5年生まれですから。マユリカさんのMV(?)最高だったし、“致死量の平成”という表現はおっしゃる通りでございます。拍手。
アートのような個人的青春ど真ん中の音楽たちがその中にはいなかったこと、周りのみんなと心惹かれる音楽がちょっとだけズレていたことは、実際ちょっとだけ寂しくて、でもちょっとだけ、誇らしかったりもします。わたしの青春はあれでよかった、間違ってなかったと、今でもライブへ行くたびに思えます。
迫りくる締切たちに打ち勝つため、一旦すきな音楽を浴びてきます! 致死量はないので! 思う存分! ばしゃばしゃと!!!
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。