令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
生みの過程の苦しみ

脚本の執筆依頼は、プロデューサーや監督からの「一緒に企画開発しませんか?」という連絡で始まることがほとんどです。もちろん企画が先に存在していて「こういうの興味ありますか?」のパターンもありますが、原作のないオリジナル作品では「ゼロから一緒に作りましょう」が圧倒的に多いです。
とはいえ、「なんでもいいです! 生方さんの書きたいことをすきなように書いてください!」なんてことはほとんどありません。たまにあるけど、振り返るとそういうテンションで始まった企画ほど沈没しています(怖)。
確定事項でなくてもプロデューサーのイメージするドラマ枠や映画の規模感、希望するキャスト、そしてジャンルやテーマを提示されます。自分の場合、まず大事にしているのは「書きたいジャンル/テーマ」かどうかです。
2025年夏現在。いろんなジャンルの企画に関わっています。なんだかとにかく数が多くててんやわんやです。その中でもやっぱりラブストーリーは強くて(たぶんsilentという保険の強さ)、【企画通らない地獄】のなかでも希望の兆しが見えているのはラブストーリーです。
ラブコメだったり、純愛だったり、大人の恋だったり、学生の恋だったり。「これでいんだっけ? 恋愛感情ってなんだっけ?」と迷子になりながら日々格闘しています。難しくておもしろい。ややこしくてたのしい。答えがなくて書き甲斐がある。ちゃんと実現するだろうか。どれもご覧いただけるのは少し先になりますが、ながーーーーーい目でお待ちください。企画ってほんと通らない。
企画が全然通らない → 不安で依頼を受けすぎる → 企画を通すためにやることが多すぎる → 企画が通ってない作品でやることがいっぱい → やることいっぱいなのに確定してる企画が少なすぎる → 全部ポシャったら仕事皆無。全部通ったらスケジュールやばい → やばい → つらい → やれることするしかない → せっせと企画書やプロットを書く → 企画が決まり始める → あれの初稿書く → それの初稿書く → あっちも初稿書く → 忙しい → あ、初稿書いたのにポシャった → つらい
この一年、上記のような日々でした。情報解禁になるものがないからって「休みすぎじゃない?」って言わないでください。冷たい水をください。できたら愛してください。そんでもって企画を通してください。脚本家になってから今がいちばん書いています。待たせてごめんなさい。
企画が決まったものも、まだ気が抜けません。情報解禁もクランクインもまだまだ先です。いつポシャるかわかりません。実現できずに消えていった企画たち、ごめんね。いつか膨大な権力を手にしたら、君たちを必ず生き返らせるから。未来で待ってて。(夏っぽいことを言えた)
確定している企画の中で、いちばん完成が遠いものは3年後に公開予定の映画。しかもその脚本はほぼできあがっている。始動したばかりのもので「2029年の放送枠で企画通したいねー」とか「早くて2030年の公開ですかねー」なんて話している企画もある。企画スタートからはもちろん、脚本の完成から作品の完成までも時差がある。
突貫工事は多くの人を不幸にするリスクがあるので、ちゃんと時間をかけられるのはありがたいし幸せなこと。ただ、抱え続ける期間が長いのもそれはそれでつらい。何がどうなったって、何かしら、誰かしら、つらい。それでもやっぱり短期間で詰め込むよりはクオリティの担保があるので安心です。お金と時間に苦しむ同業者が多すぎる。
撮影スケジュールがハマりません → 撮影期間を延ばせば? → 予算が足りないのでできません(スタッフの人件費) → 予算を増やせば? → 増やせません → 撮れないですね → この短期間で撮ります → どうやって? → なんとかします → 誰かしらが犠牲になってなんとかなる → (いろんなことに目をつむって)なんとかなりましたね~! → この予算でなんとかなるってことだね!じゃあこれ以上増やさないよ! → 増え続けるドラマ枠 → さらに減る予算 → 短期集中型低予算現場がなくならない
すべてのクリエイターに幸あれ———
この「成立‟は”する」って怖いですよね。こういう声を周囲の人たちから聞きすぎて、直接現場には関わらない立場なのに、予算や撮影スケジュールが気になってしまう。
優しいPさんは「生方さんはそんなこと気にせず自由に脚本書いてください!こっちでなんとかするんで!」とか言ってくれるんですよ。優しい。。。でもなんとかならなかったときに脚本書き換えるのは脚本家なんで!!!!!!(ちゃぶ台ひっくり返す)!!!!!! オリジナル脚本って言葉がよくないんですかね! 脚本家が好き勝手に書いてると思われちゃってる! 予算やスケジュールの都合で脚本書き換えるなんてあるあるです!!!!!!
~ ちゃぶ台を戻す ~
それぞれの立場に、それぞれの事情があります。「ダメだったらあとで脚本家に書き換えさせればいっか~」なんてPはいないはずです。本打ちだって時間とられるわけだし。物凄い人数が制作に関わっているので、どうしたって仕方のないことは起きる。それぞれの立場から見た“悪者”はいるけど、元凶は‟‟‟‟お金と時間がない“”“”でしかなかったりする。お金で解決できることっていっぱいあるんだなぁ!←脚本家になっていちばん学んだこと。
この業界に限ったことではなくて、Xでもよく見ますね。叫んでる藤原竜也さんの画像と共に「この人数で回しちゃダメなんだよぉぉぉ! 人員増やしてもらえなくなるだろぉぉぉぉぉ!」みたいな投稿。あれほんとそうなんですよね。「人が少ないのでなんとかなりませんでした♪ 不成立♪ 崩壊♪」がないと上は動いてくれないですからね。マックのハッピーセット問題でいちばん気の毒なのは店舗で働くスタッフさん。ポケカのあの期間、時給3倍になってますように。

なんだか企画・制作の愚痴ばかりになりましたが、なにより幸せなのはどれも実現したい企画だということです。嫌々関わっている作品はひとつもありません。(だから企画が通らなくてしんどい)。いつの日か、今くすぶっている作品たちがすべて世に出たとき、
あのときエッセイで話してたのはこの作品のことで~す! 無事生誕☆☆☆
と、答え合わせができたら幸せです。そうなるように、今は書くしかない。生みの過程のこれらの苦しみ、はやく打破して生み出したい。そういえば助産師時代、産婦さんがよく言ってました。「産む瞬間より『いきんじゃダメ!!』って助産師さんに言われてるときがいちばんつらかった……」と。子宮口全開大にならないといきんじゃダメなんだけど、その前にめちゃくちゃいきみたくなるらしいです。凄まじい便意に近いらしいです。
産婦さん「すごいウンチしたいんですけど!?」
わたし「いきんじゃダメです!それ赤ちゃんです!」
って会話が時々ありました。どの赤ちゃんも生まれる前にウンコ扱いされるんだな……と思ってました。ごめんなさい。わたしもいまウンコ(脚本)が出せなくてつらいです。産婦さんたち、こんな気持ちだったんですね。これはつらいわ。はやくいきみたい。はやく我が子に会いたい。
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。