令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】
シン・カンセン

「海外に行ったことがない」と言うと、驚かれることが多い。知り合いたちは当たり前のように旅行や仕事で海外に行っていて、逆に驚いた。みんな日本を出たことがある。すごい。大人だ。パスポートを作ったことがないどころか、国内線の飛行機にも自主的に乗ったことがない。自主的じゃない修学旅行や実習で乗っただけ。誰かが取ってくれたチケットで、誰かに指示された通りに荷物を預け、誰かに導かれるままに搭乗した。家族旅行もそんな遠くへ頻繁に行く家じゃなかったし、親の運転する車で行くことばかりだった。もしかしたら記憶にない小さい頃に家族で飛行機に乗っているかもしれないけど、それも、親に導かれるままに、だ。
新幹線すら数えるほどしか乗ったことがない。それこそ修学旅行とか、友達とちょっとだけ遠出するときとか。ほんとに数えるほど。最後に乗ったのはもう何年前だろう。たぶん何かのフェスに行ったとき。フットワークは軽いのでノリと勢いでどこへでもひょいっと一人で行くほうではある。ただ、いつも車か電車というだけ。新幹線で行ける場所=車で行ける場所、という認識がある。運転がわりかしすきなので、車を選択してしまう。車で行けない場所=飛行機で行く場所、というわけだ。飛行機で行く場所=遠い=めんどくさい=行かない。こういうわけである。
と、いうことで、一人で新幹線に乗ってみることにしました!!(飛行機に乗る勇気はまだない)
突然の新幹線乗車宣言。というのも、目的はシナハンである。シナハンって言葉は共通言語なのでしょうか。シナリオハンティングのことです。ロケハンはまだ聞き馴染みがあると思います。ロケーションハンティング。そのシナリオ(脚本)バージョン。脚本を書くにあたって、舞台となる街を観に行ったり、登場する施設を見学したり、そこにいる人に話を聞いたり……と、要は執筆のためのリサーチです。とある作品で神戸を舞台にしました。関西に全く縁がないので、是非一度しっかりとこの足で神戸の街並みを歩き、この目に神戸の景色を焼き付けたかった。
普通は脚本を書く前段階でシナハンへ行くんですけど、あの、その、対象となる作品の、えっと、脚本、はい、もう脚本が、えぇ、できています。シナハン前に書いた。脱稿はしていないものの、もう改稿を重ねキャスティング段階に入っています。情報解禁をお楽しみに!
……ほんとは書く前に行きたかったんですよ、ほんとに。でも初稿をあげる時期がとにかく忙しかった。何かしらの締切に延々と追われてた。じゃあ今は忙しくないのかって? そのときより追われる締切の数は増えています。ゲロゲロ。
デッカチャン気付いちゃったんだけど、締切ってなくならないんだよね~。(そっと太鼓を仕舞う)。締切に追われながら神戸に行くことにしました。冷静に考えたらシナハンってバチバチに仕事の一環。一環どころか超仕事。むしろ行かなきゃダメだった。ネットと本だけのリサーチ、ましてや想像だけで済ませちゃダメだった。神戸じゃないと成立しない話、というわけではありせん。それだったら流石に先にシナハン行ってます。でも! まだ脱稿はしていない! ストーリーは大きくいじらないとはいえ、何か吸収して脚本に反映できることはあるはず! すべては作品のクオリティのため! あと、これはまだ企画が正式には通ってないんですが、簡易のプロットまで進んでいるとある作品のなかで、新幹線の車内をなかなか重要な場所として使っているんですね。大して乗ったことがないくせに!! それもあって久しぶりに新幹線に乗っておきたかった。これはまだ脚本に入っていなくて企画を詰めつつリサーチ真っ最中。というわけで、新神戸へ向かう新幹線のチケットを購入した。ワ~イワイ♪(太鼓を叩き鳴らす)
いざ、“シン・コウベ“へ————
この表記にもなります。ネフリで『新幹線大爆破』をわっくわくで鑑賞したばかりでしたから。おもしろかった……。ネフリの内部の方に「とてもおもしろかったです! 制作者の方へよろしくお伝えください! とてもおもしろかったです!!!」とお伝えしました。日々この仕事をしていて気付いちゃったマーチなことがあります。

業界の方に褒められるの、とてもうれしい。
なので、おもしろいと思ったものは関係者に届くように全力で「おもしろい」を伝えようと心がけています。わたしに褒められたところでうれしいかどうかを考えてしまうとネイティブネガティブが暴れ出すので考えないようにします。『新幹線大爆破』の関係者のみなさま! とてもおもしろかったです!! 最高のエンタメをありがとうございました!!!
おかげで「この新幹線はのんちゃんが運転してるのか~!」という妄想でたのしい車内時間を過ごすことができました。不思議と「爆発するんじゃなかろうか……」という不安にはかられなかったです。俺たちのバックには斎藤工さんがいる。
シン・コウベ駅に着きました。駅を降り、街をふらふら。ご飯もぐもぐ。写真ぱしゃぱしゃ。笑顔にこにこ。帰りカタカタカタカタカタカタ(PCを全力タイピング)。
日帰りです。とても素敵な街で、行ってよかったです。ただ、エッセイに記すほどおもしろいことは何も起きなかった。エスカレーターでどっちに立つかおどおどしたくらい。あと神戸線のホームドアが暖簾みたいでちょっと笑ったくらい。このエッセイもシン・コウベに着く前までで2000字を超えてしまって、どうしよう……月を跨いで二部構成にする……? と考えたのですが、要らぬ心配でした。そう簡単におもしろエピは生まれない。
宿泊しないぶん費用が浮くので生意気にグリーン車に乗りました。仕事も捗ってよかった。普段座りっぱなしで働いているので往復5時間強でも全然苦じゃなかった。移動中に新規の企画書を一本書き上げてやりましたよ! 企画通れ!!
この調子で、次は博多まで行きたい。飛行機はまだ怖いので、シン・カンセンで。
生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。