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TIMELESSPERSON

2025.07.20

脚本家・生方美久が説く。運命の歯車は代わる代わるにぐるんぐるんなわけ

令和の清少納言を目指すべく、独り言のようなエッセイを脚本家・生方美久さんがお届け。生方さんが紡ぐ文章のあたたかさに酔いしれて。【脚本家・生方美久のぽかぽかひとりごと】

偶然の許容と運命論

東京のド真ん中で、ばったり地元の友人と出くわしたことがある。仕事相手の妹さんが、別件の仕事相手の奥さんだった。お仕事した俳優さんのご家族が、元職場の上司とお友達だった。
打ち合わせの日程を決めた直後に「○日空いてるー?」とピンポイントで友人から誘いがきたり、自分に過失のない事故に巻き込まれたり。そういう悪いほうも含めて、タイミングというか、偶然というか、はたまた運命というか。我々はそういう類のものに振り回されて生きている。

小・中学校はいっしょだけど特別仲が良かったわけではなく、高校だけ離れた同級生。同じ大学の同じ学部学科専攻に進み、サークルも同じに。それからずっと親しく、現在も毎日のように連絡をとっている(なぜかSNS上で)。小中9年間、同じ空間で過ごしても仲良くなる気配はなかったのに、高校3年間離ればなれになったら、その後ひょいっと結ばれた。なんとなくだが、彼女とは初対面だった小学校一年生のときに親しくなっていたら、今のような腐れ縁にはなっていなかった気がする。ほんとになんとなくだけど。

大学生のとき、ゲオでアルバイトをしていた。レンタルにはポンタカードが必要で、個人情報の登録が必須。住所や連絡先が変わったら手続きしないとならない。ある日のバイト中、レジに綺麗なお姉さんがやってきた。「住所が変わったので登録お願いします」と、ポンタカードと免許証を出された。免許証の表には旧住所が、裏には新住所が記載されていた。「お預かりしまーす」と、免許証を見て驚いた。お姉さんの旧住所が、わたしの現住所なのである。

「??????」

5度見くらいした。大学一年生の途中で実家から大学近くのアパートへ引っ越したのだが、そのアパートの住所、そして部屋番号も、お姉さんの旧住所そのものなのだ。

「……(前の住人だ!!!!!!!!!!!!!!)」

まさかのご対面である。ものすごい胸の高鳴り。恋ってこうやって始まる気がした。言いたい。とにかく言いたい。伝えたいこの気持ち。

しかし、わたしは当時まさにその部屋に住んでいたため、「わたし今ここ住んでるんですよー!」とは、さすがに言えない。群馬とはいえピチピチの女子大生の一人暮らしである。オートロックでもないし。危険。高鳴る気持ちをグッと堪え、淡々と作業した。テキパキと登録を終え、「以上です! ありがとうございましたー!」と、お姉さんを切ない笑顔で見送った。ちょっと泣いてたかもしれない。高鳴る鼓動のままバイト仲間に報告した。当然、「そんな偶然あるー?」みたいな反応をされた。ほんとだもん! ほんとにわたしの今の部屋の住所が書いてあったんだもん! 見たもん!と、メイちゃんばりに主張した。トトロいたもん。

これはただの偶然でしかありませんが。

ドラマや映画をつくっていると、この‟偶然”をどう扱うかに非常に悩まされます。見たことあると思います。メインキャストの二人が道端で何度もばったり会ったり、同じバスに乗っていたり、アパートのお隣さんだったり、勤務先に家族が救急搬送されてきたり、「お前さっきの!?」と朝の教室で突然立ち上がり転校生を指さしてしまったり。ラブストーリーの場合は逆にすれ違いまくったり。あ~! そっちにいるのは当て馬なんだってば~!ってなりますよね。安心してください。最終回で結ばれます。

そういう‟偶然”を描くと、大抵言われます。「あり得ない」とか「ご都合」とか。でもそういうの全部なしにしちゃうとロマンチックに欠けて味気ないでしょ!? それはそれで「何も起きない」とか「ストーリーがない」とか言うでしょ!? 粗探しやめて!? 重箱の隅をつつかないで!?

「……………」

深呼吸しました。紬ちゃんは駅のホームで想くんを見かけるし、すき花の4人は美鳥ちゃんに吸い寄せられてあのお家に集合するし、弥生ちゃんと水季ちゃんは同じ産婦人科に行っていたんです。そうなんです。それを、偶然と呼ぶか、運命と呼ぶかです。

ドラマや映画だと「あり得ない」と言いたくなるのはわかる。さすがにこれは脚本家の怠惰です!ごめんなさい!ってことも確かにある。ごめんなさい!!

でも、現実世界でも起きるじゃないですか、あり得ないこと。『世界仰天ニュース』がだいすきで食い入るように見ちゃうんですけど、あれノンフィクションですからね。『ザ・ノンフィクション』ですか? すきに決まってるでしょ!

序盤にだらだら書いたわたしの周りに起きた偶然もぜんぶノンフィクション。たしかにあの日、アパートの前の住人が、偶然わたしのバイト先に、偶然わたしがシフトに入っている時間に、偶然わたしが待ち構えるレジへやって来て、そこが偶然レンタルビデオ屋だったから、なんの躊躇いもなく個人情報を見せたのです。偶然?

そもそも偶然なんてなくて、必然が折り重なっているだけ。そんなこともよく思います。生きていたら当たり前に日々様々な選択をしている。おにぎりの具を鮭にするか梅にするか、なんて小さなことから、内定をもらった二社のうちどちらに就職するか、といった大きなことまで。いや、大きい小さいはないのかもしれません。鮭おにぎりを食べたら食あたりして泣く泣く病院へ。そこで出会った医師とあなたは恋に落ちるかもしれない。結婚し、子供が生まれ、その子が人類滅亡の危機を救うかもしれない。あのときあなたが梅おにぎりを食べていたら‥‥‥人類は滅亡していたんです。いや待って。鮭おにぎりの食あたりで、あなたは死んでいた可能性もある。死んだら子供が生まれないのでそれはそれで人類滅亡!(映画『フィッシュストーリー』がだいすきです。観て。ゆくえちゃんはやっぱり数学が得意なんです。)

ちょっとふざけましたが、ちょっと本気です。酔った父から両親の馴れ初めを聞いたときは「へぇ~(鼻ほじほじ)」って感じでしたが、父と母が出会うまでの選択が何か違っていたら、わたしはこの世に生まれていないかもしれない。ギリ生まれてたとしても、厳しい教育方針の親で「脚本家なんて仕事認めん! 公務員になれ!」って感じだったら、『silent』もこの世にないわけです。『silent』がすきな人! わたしの親が放任主義だったことに感謝!!

またちょっとふざけましたが。自分の選択に限らず、周囲の人の選択によっても、運命の歯車は代わる代わるにぐるんぐるんなわけです。やっぱ‟運命”なんでしょうね。ちょいと調べてみたところ、生まれたときから決まっていて変えようがないことは【宿命】なんだそう。【運命】は努力や選択で変えられるもの、という解釈が一般的らしいです。じゃあやっぱ偶然じゃなくて運命だ。誰かとどこかでばったり会うのは、あなたがそこに行くという選択と行動をしたからです。

運命論を信じ語る人が鮭おにぎりを食べ、運命通りに生きていくとしても。梅おにぎりのほうにも別の‟運命”があったはず。運命論に信憑性がないのは、梅おにぎりパターンを知りようがないから。どう足掻いても、ノンフィクション=運命だから。

ちなみに似てるけど違う言葉、‟運”。これに関してはまた後日語りたい。わたしはめちゃくちゃに運が良い。運で他人に負ける気がしない。いつかこの運の良さを自慢しますね。運が良いので、このエッセイはそう簡単に終わりませんので。

生方美久(うぶかたみく)
1993年、群馬県出身。大学卒業後、医療機関で助産師、看護師として働きながら、2018年春ごろから独学で脚本を執筆。’23年10月期の連続ドラマ「いちばんすきな花」、’24年7月期の連続ドラマ「海のはじまり」全話脚本を担当。

TEXT=生方美久

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