20年以上、毎日300~500歩程度しか歩いていなかった超絶インドアだらしな生活だったのに、突然フッ軽オタ道を走り出したこの数年。もう「いつかそのうち」なんて言ってられん! 見たいものは見ておきたい! 寄る年波を乗り越えて、進め! 書評家・藤田香織さんによるエッセイ【だらしなオタヲタ見聞録】。
50半ば過ぎて気づいた、オタ活に必要な”友だち”問題

いきなりどんな告白ですか? ってな話ではありますが、自分には「おひとり様」上級者だ、という自覚があります。
その昔、勤めていた会社を30歳で辞めて、フリーランスのライターになり、そこから2年くらいで、ほぼほぼ書評関係の仕事が主になりました。まだ今ほどインターネットが普及していなかったこともございまして、有難いことに週刊誌、隔週誌、月刊誌とレギュラー仕事も増えていきました(丁寧に言ってみた)。
好きな本はもちろん読む。好きかどうかわからない本もとりあえず読む。好きではなくても仕事のために読む。読まないことには仕事にならないので。
読んだらそれを原稿に書く。短い原稿と長い原稿では構成が違うとか、どこまで書いたらネタバレになるのかとか、悩みながら書く。書かないことにはお金にならないのでとにかく書き続けたあの頃。若かった……!
読んで読んで書いて書いて読んで書いて読んで書いて。その間はずっとひとりで、毎日誰とも話さず、家で仕事をしていたわけです。(あー、どこにも行かずに好きな本を読んで仕事にして生きていけたらいいのになー)と深夜2時の六本木で上司のカラオケに合わせてタンバリンを叩いていたときの夢は叶ったし、そのうちインターネットも普及して、mixiやTwitterができて、愚痴やどうでもいい話をちょっとする相手がいない問題、も多少解消されました。
もちろん、最初からひとり耐性があったわけではなく、感情の波はあったし、寂しさから衝動的に犬猫を飼ったりもしました(今も飼っている。犬1匹と猫2匹)。それにもいい加減慣れてきたところで、コロナ禍に突入し、世の中的にもおひとり様で行きやすい場所が増え、生きやすくもなってきた。寿司も焼肉も映画も無問題。オタ活で地方に遠征してホテルに泊まるのも全然OK。いつでもどこでもなんでも、基本ひとりでできるし!と思っていたわけです。
今思えば日々のほとんどのことが自己完結できるなんて、恐ろしく傲慢かつ贅沢な日々でした。

が、しかし。
「オタ活」と呼ばれるものを始めて、ひとりではできないことがある、と気付いてしまった。
まず、コンサートや舞台のチケットを取る限界。ひとりでは、申し込んで抽選にはずれたら、その公演には行けないってことになる。厳密には復活当選があったりファンクラブではなくプレイガイドの一般で取れる可能性がなくもないけれど、基本的にははずれたらそれで終了。諦めなくても終了。
ところが、オタ仲間がいれば救済される可能性が出てくるのです。2枚で申し込んでいたチケットが当たったけど、行く相手を決めていなかったとか、一緒に行くつもりでいた友だちの都合がつかなくなった場合に声をかけてもらえることがある。逆もまた然りで、行きたい現場のチケットを手に入れるには、持ちつ持たれつ協力し合える仲間がいたほうが確立は上がる、という残酷かつぼっち民には厳しくも哀しい現実があるわけです。
加えて、オタ活歴も6年目に突入した最近は、ライブでも舞台でも現場に行った後は、「復習したい」という欲求が強くなってきた実感があり、それには答え合わせをしてくれる仲間、できることなら正解を解説してくれる人を欲してしまうようになってきました。
推し界隈について、私はグループ結成前から応援していた古参オタではないし、彼らの所属している事務所については長年まったく興味がなかったので、あれこれ独学で学んできたのですが、ちょっと勉強したばっかりに自分が何を知らないかを知ってしまった。世の何についても同じだと思われますが、私は今、興味がないときには目に入っていなかったことが、少し関心を持ったらたちまち気になって仕方がなくなるあの現象の渦中にいるのです。

と、くどくど書いてみましたが、つまりは「ライブや舞台を一緒に観に行って、ワーキャーへぇへぇなるほど理解! とか言い合える友だちが欲しい!!」という気持ちが抑えきれなくなってきている。10代の頃には友だちなんていなくても平気だと強がって生き抜いてきたのに、50も半ばを過ぎた今になって友だちが欲しいなんて、どうした自分! どうかしてる自分!
オタ友界隈のトラブルを脅えるほど聞いているのに、どうしてそんな夢を見てしまうのでしょうか。おひとり様が拗らせた友だち願望の厄介さについては、まだまだ語りたい所存です。
より充実したオタ活生活に!〈今月のオタ助け本〉
『オタ活1年生』(ゆるりまい/幻冬舎)1400円
NHKでドラマ化もされた「わたしのウチには、なんにもない。」シリーズの著者が、ある日突然、アニメから漫画にはまり、オタク沼に溺れていくまでを描いたコミック・エッセイ。グッズ欲との戦いからの、ぬい(ぐるみ)やアクスタ撮りの昂まり。そしてやっぱり「魂の双子」となるオタ友探しの葛藤もあり、他界隈でも楽しくためになるエピソードが満載!
「小説幻冬」2025年6月号より
※この記事は幻冬舎plusからの転載です。