染色を中心に自然素材や廃材を使った作品制作を行う現代美術家・山本愛子さん。染色と旅を通じて得た、ささやかな気付きをつづる。今回は、農園と染色の、出会いと再会のお話。【連載「植物と私が語るとき」】
農園と染色の、出会いと再会
東京都墨田区の住宅街のなかに農園があります。都会のオアシスのように忽然と現れる緑地。なぜこの立地に?と不思議に感じていたら、元々は二百坪の駐車場だったそうです。2017年より「たもんじ交流農園」として生まれ変わり、本格的な農地として開墾されました。現在は地域に愛される、人々の交流と実践教育の場になっています。
私もまた、とあるご縁をきっかけに、農園で廃棄される植物を活用した草木染会を現場で開催しました。農園での草木染は初めてでしたが、今までで最も草木染にふさわしい環境だと感じました。農園には植物が豊富に存在し、染色に必須の水場も整っています。また、自然を愛する人々が日常的に集う場所でもあります。人を含め、草木染に必要な要素が最初から在るのです。農業と染色という2つの領域がまさに調和したのでした。完成した布は現在、農園の入り口の暖簾として活用されています。
色褪せてきたら、再び染め直そうともお話ししています。「色褪せ」は一般的にはネガティブに捉えられますが、染色を介せば、再会の口実となるポジティブな出来事になるのです。再会を願いながら過ごすことで、布は色褪せながら、私たちは老いながら、交流は味わい深くなっていくのでしょう。
山本愛子(やまもとあいこ)
1991年神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院先端芸術表現科修了。自身が畑で育てた植物や外から収集した植物を用いて染料を作り、土着性や記憶の在り処を主題とした作品を制作している。