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LIVING仕事

2024.06.13

命を燃やして取り組みたいと思えた仕事とは?タンザニアで起業した女性の葛藤

新しいことを始める、しかも遠いアフリカの地で。これは一人の女性が日本を離れ、思い描く夢に挑んでいるリアルストーリー。タンザニアで起業し、“生理用ナプキン工場長”となった菊池モアナさんが、現地で奮闘する日々を綴る第2回目。【シリーズ/お仕事エッセイ

夢が仕事になるまで

菊池モアナのお仕事エッセイ
幼い頃の息子とのツーショット。

こんにちは。アフリカのタンザニアという国で生理用ナプキン工場長をしている菊池モアナです。

私は今、生理用ナプキンの製造・販売を通して、若年妊娠で退学した女の子たちが働ける場所を提供するとともに、小中学生に対して若年妊娠を防ぐための性教育と貧困層の女の子たちに生理用ナプキンの無償配布を行なっています。

前回のお仕事エッセイでは、私が国際協力のお仕事を始めたきっかけについて書かせていただきました。今回は、自身の妊娠をきっかけにソーシャルビジネスを起業するに至ったストーリーについてより詳細に書いていきたいと思います。

命を燃やして取り組みたいと思えた出会い

大学3年生のときに受けていた授業で習った「教育が戦争や紛争などの争いを解決するきっかけになる」という考えに深く共感し、同時にアフリカの子供たちの就学率の低さとその背景を知りたいと思うようになり、休学してタンザニアの山奥の村で子供の退学理由の調査をしていました。

菊池モアナのお仕事エッセイ
大学時代に訪れたタンザニアの村での調査の様子。

調査では退学してしまった子供たちのお家に住まわせてもらい、子供たちと同じものを食べ、同じベッドで寝て、洗濯や掃除、ご飯の準備など「生活」を一緒にさせてもらうなかで、家族や周囲の人との関係性、収入状況、生活環境などを観察しながら行っていました。

この調査のなかで一番心に残ったのが、16歳で妊娠し中学校を退学してシングルマザーとなった女の子、アナとの出会いでした。(詳しくは前回の記事で紹介)

当時、彼女は学校の先生が絶賛するほど成績優秀で、お医者さんになりたいという夢を持つ中学2年生でした。祖母と二人暮らしをしていて、畑で育てた野菜の販売で生活費を捻出する貧しい生活のなか、予期せぬ妊娠をしてしまい学校を退学になってしまいました。相手の男性は逃げてしまい、一時は祖母からも家を追い出され、大きなお腹を抱えながら生きる希望を失った彼女との出会いは自分の無力さを突きつけられる出来事でした。

菊池モアナのお仕事エッセイ
水汲みに向かうアナ。

当時大学生だった自分には、一時的に食べ物やお金をサポートすることはできても、彼女の人生を変えてあげられないことがとても悔しく、今でもそのときの気持ちを鮮明に覚えています。

それは、この出来事のすぐ後に私自身も学生でシングルマザーになったからこそ、より自分事として感じたのだと思います。

予期せぬ妊娠と波瀾万丈な人生のはじまり

現在の夫とは、タンザニアに訪れた際にインターンをしていた現地NGOで出会い、私の調査をサポートしてくれていました。共に活動をしていくなかで、現地の子供たちを思いやる優しい心や行動、彼自身の性格に惹かれていきました。

当時は、彼との間に子供ができ、未婚で、しかも学生で出産し、4年半も国際遠距離恋愛をすることになるとは全く想像もしていませんでした。

妊娠が発覚した時はまだ結婚も一切考えておらず、大人にもなりきれていないのに母になることが全く受け入れられない状態でした。

菊池モアナのお仕事エッセイ
ザンジバル島からの夕方の眺め。

母になる覚悟ができず中絶するかどうかを決めかねている間にもお腹の中の子供はどんどん大きくなっていきました。両親にしばらく伝えることもできず、相談した友達からは「大学はどうするの?」と現実を突きつけられ不安で押しつぶされそうだったことを覚えています。

未婚のまま出産することを決め、勇気を出して伝えたときの家族や友達からの反対の言葉は、私の幸せを考えてくれたうえでの言葉だと理解はしていても、生まれてくる小さな命を祝福してもらえないことはこんなにも寂しい思いをするのだと実感しました。

自分で決めた道とはいえ、妊婦健診に夫婦で来る人たちや、お店でベビー服を一緒に選ぶカップルを横目に涙がこぼれ落ちそうになるのをこらえることは何度もありました。

とても辛く苦しい思い出ではありますが、この感情を身をもって体験できたことはタンザニアの女の子たちと寄り添っていくうえでとても大切な経験だったと、今となっては思います。

大変だった学業・仕事・子育ての両立

出産を決めてからは、本当に試練の連続でした。まずは、健診代や出産費用、育児に必要なものの準備にかかる費用を貯めるために臨月までアルバイト。無事に出産が終わったかと思えば、すぐに大学へ戻らなくてはならず、生後2ヵ月の息子を抱っこ紐で担いで大学へ通いました。

友人や後輩、時には教授に息子を見ていてもらい、授業に出席。休み時間に授乳、そして再び授業へ戻り、帰宅後は息子を担ぎながら卒論を仕上げるという毎日でした。

菊池モアナのお仕事エッセイ
大学のゼミに参加させてもらった息子。

しかし、この慌ただしい生活を送りながらも、私はものすごく恵まれているのではないかと気が付くようになりました。

日本に生まれたというだけで、学生で出産しても学校に通い続けられて、家族や友人のサポートもあって、子供を保育園に預けられる環境があって、働きたいと思えばいつでもアルバイトをすることができる。それに加えて、児童扶養手当や医療費助成制度など国からのサポートも受けられる。

一方で、誰からもサポートを得られずタンザニアの貧しい暮らしのなかで、ひっそりと耐え忍んでいた女の子、アナ。

彼女は今どうしているんだろう?と想いを馳せるようになりました。

美しい姿に魅せられて

私がアナと出会ったとき彼女は「学校に通いたい」「お医者さんになりたい」と言っていて、当時使っていた教科書もきれいなまま残していたことを思い出し、久々に連絡をして彼女の復学に対する気持ちを再確認しました。

彼女は二つ返事で「復学したい! 学校を探してきます!」といい、いろいろな学校を訪問して通える学校を選び、入学申請書も持って帰ってきました。

当時タンザニアは、学生が妊娠すると強制退学となり、公立学校への復学も禁止されていました。制度上、私立学校への復学は許されていても、学費や制服代を支払うことが難しく復学できる女の子はほんのひと握りでした。

そこで、貯めたアルバイト代で学費の支援を開始すると、復学した先の学校で飛び級をして地元紙にも取り上げられるほど頑張っていると知り合いを通じて聞き、喜びと嬉しさに包まれました。

菊池モアナのお仕事エッセイ
復学したアナの様子。

辛い状況に置かれても志を持ち続けることでチャンスを得て、生きる力を取り戻して夢に向かって歩んで行く姿は、なんて美しいんだろうと感動しました。

同時に、タンザニアにはアナのように10代で妊娠する女の子たちが7万人以上存在しているのに、私のポケットマネーからでは一人しかサポートできないということが、悔しいと思うようになりました。

本当の支援を追い求め、起業の道へ

彼女たちが必要としている本当の支援とは何なのだろう?と知りたくなり、大学を卒業後に再びタンザニアに渡航し、若年妊娠をして退学した女の子に対象を絞り調査を行いました。

調査をする前は、
「みんなきっとアナみたいに夢があって学校に復学をしたいのではないか?」
「復学のための奨学金をサポートできるようなNPOを設立したらいいのだろうか?」
「女の子たちが着の身着のまま駆け込める居場所を提供するのがいいのだろうか?」
などの仮説を立てていました。

しかし、女の子たちの回答は予想と異なり「学校にはもう戻らなくていい。どんな仕事でもいいから、自分で稼いで自立して子供を養いたい。家族を助けたい。」という声がほとんどで、驚きました。もちろんなかには「学校に戻って勉強を続けて、学校の先生になりたい / お医者さんになりたい」という女の子たちもいましたが、大多数が前者だったのです。

菊池モアナのお仕事エッセイ
登下校する学生たち。

もともと夢が明確にあった子たちや、勉強を頑張ることでいい仕事に就けると信じている子たちは復学を望むけれど、若年妊娠した女の子たちは極貧層出身のことが多く、夢を明確に描けている子たちが少ないのが現状です。

極貧層の女の子の調査をしてみると、両親が亡なっていて親戚に預けられていたり、片親だったりと家庭環境(暮らしの環境)が悪いことが多いため頼れる人がおらず、将来の夢を描く以前に今日どうやって生き延びるかということで頭がいっぱいの子たちが多いように感じました。

この子たちには、まずは安心できる居場所が必要なのではないか? そして同じ境遇の女の子たちが集まり、志を持って生きていくコミュニティに所属できれば、もう一度自分も頑張れるかも!と前向きに物事を捉え行動ができるようになるのではないか?

菊池モアナのお仕事エッセイ

さらに、誇りを持って働ける仕事に就き自分で稼いだお金で、復学や起業、兄妹のサポート、自分の子供への投資ができることで、生きることの喜びを感じられるのではないか?と、自分なりの結論を出し「託児所付きの働ける場所と、新しい挑戦をするためのお金が貯まる仕組み」を創っていこうと決めました。

ソーシャルビジネスの立ち上げ

ということで、お仕事をつくろう!と決めたけれど、お仕事をつくった経験もなければ、アルバイト以外で本格的にお仕事をしたこともありませんでした。

そんな、大学を卒業したての私を起業家のたまごとして修行をさせてくれたのが株式会社ボーダレス・ジャパンというソーシャルビジネス(社会問題の解決を目的としたビジネス)だけを行う社会起業家集団でした。

当時、ボーダレスジャパンは新卒起業家というユニークな採用枠を設けていて、新卒5人一組に対して1,000万円を支給しソーシャルビジネスを起業させ、経営を通して経営を学ばせるというプログラムを開始したところでした。

すばらしいタイミングでこのプログラムで修行をさせてもらうことができ、1年後に現在経営しているBorderless Tanzania Limitedという会社をタンザニアで立ち上げることができました。

菊池モアナのお仕事エッセイ

若年妊娠で退学した女の子たちが、安心して働ける託児所付きの雇用環境を提供するために、生理用ナプキンの製造、販売を行うソーシャルビジネスを軌道に乗せるために日々奮闘しています。

次回は、私がなぜ「生理用ナプキンの製造、販売」のビジネスを選んだのか、具体的に現地でどのように事業を進めているのかなどについてご紹介していきたいと思います。

Information

菊池モアナ

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菊池モアナ

菊池モアナ(きくちもあな)

Borderless Tanzania Limited 代表取締役社長。1995年生まれ。神奈川県藤沢市出身の28歳。タンザニアMIXの5歳の男の子を育てる一児の母。
日本大学国際関係学部在籍中、イギリスへ留学した後、タンザニアに渡航し子供が退学する理由を調査。大学3年時に妊娠・出産、その後3年間シングルマザーを経験する。2020年に株式会社ボーダレス・ジャパンに新卒起業家入社し、再エネ供給事業、技能実習生向け日本語教育事業の立ち上げを経験。2021年にBorderless Tanzania Limitedを設立し、若年妊娠で退学したタンザニアのシングルマザーが働ける場所を作るために生理用品の製造・販売を行うLUNA sanitary productsを立ち上げた。

TEXT=菊池モアナ

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