世の中で流行っているモノゴトの背景に、必ずといっていいほど存在するものがある。それが「PR」のチカラ。PRの仕事に携わるプロフェッショナル、WORKING FOREVER代表の西澤朋子さんが綴る「この仕事の裏側」第5回。【シリーズ/お仕事エッセイ】
いつだって新人に戻れる強さを
この春からいくつかの新しいお仕事がスタートしました。
期待して頼ってくださっている仕事、新しい感性や感覚を自分たちも吸収しながら共にアップデートしていく仕事、さまざまです。なかには、10年ぶりに声をかけていただいたお仕事も。緊張しつつも、それをはるかに上回る好奇心とわくわく感に高揚しながら、新鮮な気持ちで走り出そうとしています。
何をやってもうまくいかない時期は…
新生活が始まり無我夢中だった4月、そしてGWが終わり、ふと足が止まってしまった…というこの時期。職場や配属先、人間関係など、さまざまな環境の変化で混乱することも多い季節。新しい環境に心躍り前向きに取り組める人もいれば、心や体に不調をきたしてしまう人も多いことでしょう。そうした経験はもちろん私にもあります。
会社員時代のことを思い出しています。長く慣れ親しんだ部署からまったくの畑違いの部署に異動になったときのこと。新しいその場所では、自分が積み重ねてきたスキルや経験が誰にも必要とされていないような気がしました。期待されていない、求められていない苦しさを初めて感じたのです。
おそらく、当時は経験や年齢やプライドにとらわれてしまい、「ここで自分は何をすればいいのだろう」と、活躍できていない自分を誰よりも自分自身が情けなく思い、そんな時間をとても苦しく感じていたように思います。
そんな状況のなかで、ふと、同じように暗い顔をした人がいるのに気が付きました。その年の新入社員の男の子でした。キラリと光る長所がたくさんある子なのに、ただ要領よくその場の雰囲気に合わせられないというだけで、チームの中で悪目立ちし孤立してしまっているように見えました。
誰でも最初はミスをしやすいものです。ミスをしてはいけないと思えば思うほど緊張しすぎて、ミスをする。新しい環境に身を置くと、そんな悪循環に陥りやすいもの。私もその子もどちらかというと要領が悪い不器用なタイプだったので、その頃は交互によく怒られていたものです。わたしはあきれられながら、その子は怒鳴られながら。
ある日、その子がとても悲しそうな顔をしていたので声を掛けると「辞めたい」と一言。神経の図太い私は、こう返しました。「仕事なんて、半年もすれば馬鹿でも慣れる。その半年も経たないうちに、できる奴・できない奴と人にレッテルを貼る人ほど、本当はできない奴なんだから!!! 見返してやろうよ!!」と。
新人と同じ目線に立って、壁をよじ登る!
その日から、その新入社員君と私はお互いにこの「怒られスパイラル地獄」を脱出しようと、水面下で助け合う日々がスタートしました。
“ヤバイ! これ次質問したら絶対怒られる!”と、聞くに聞けない状況で私が困っていると、「西澤さん、これですよっ!!」とフォローしてくれたり、「〇〇君、これだよこれっ!!」と互いに絶妙にアシスト。その子の「お母さん」と言えなくもない年齢の私と新人君が同じ目線で、工夫し立ち向かうことで、乗り越えなければいけないその壁も、だんだんと楽しいものに変わっていったように記憶しています。
うまくいかないとき、それは大成長期の前触れ?!
この苦しかった経験から感じるのは、「うまくいかない時期のほうが人を成長させる」ということ。
人生を振り返ってみても、大きく飛躍していくターニングポイントの直前は、たいがいひどく寒い冬の時代、つまり自分にとってまったく風の吹いていない時期、何をやってもうまくいかない時期が訪れているものです。
そうした時期こそ人は、努力やら工夫やら根性やら、ありとあらゆる力を振り絞って、その暗闇から抜け出したい一心で取り組むもの。だから、やはりいいときよりもはるかに多くのことを学び、吸収しようとし、時に自分自身を見つめ、時に深く反省したりもしているのでしょう。
そして、もがいて、もがいて、ようやく、「ぷはぁーーっ!!!!」っと水面に顔を出せたとき、いつの間にか目の前に新しい世界が広がっている。
そう、すべては自分の「心の在り方」次第で。
プライドを軽やかに脱ぎ捨てて
お仕事をご一緒している中央区シルバー人材センター※には、人生の先輩として素敵な言葉をくださるシルバーさんがたくさんいらっしゃいます。
※シルバー人材センターとは、高齢者の就労支援・社会参加を促し、地域の発展に寄与することを目的として運営している団体です。
以前、WORKING FOREVERのサイトで彼らにインタビューさせていただいたときのこと。とても心に響いた言葉があります。
「人はいったん自分を捨てないといけない。これまでの経験、過去にとらわれていると前に進めない。プライドは持っていて構わない、でもいったん手放してみれば自由になれる。ただの人になれたら、とても楽になれる」
センターに登録し、65歳、70歳を越えてからもまだまだ仕事をしつづけたい、と願う人たちに向けてのお話でしたが、すべての世代の社会人にも当てはまる言葉でもあると思うのです。
「自分には価値がある」と、プライドを持っているからこそ私たちは前進していけるけれど、時にはそれがあるからこそ、立ち止まってしまいその場所から動けずに苦しむこともあります。
うまくいかないとき、先が見えないとき、前向きに思えないとき、そんなときこそ、プライドを軽やかに脱ぎ捨ててみることも大切なのかもしれません。いや、「捨てる」のではなく、脱いで、ちょっとだけその辺の椅子にでもひっかけておく、また着れるときがきたら羽織ればいい、そのくらいの心持ちで。
シルバーさんたちが言うように、自分を一旦「ただの人」だと認めることで、新しい気持ち、新鮮な気持ちで、その場所で新しく生まれ変わり、ひたむきに走り続けることでまた新たに輝き出していくのかもしれません。
新人のような気持ちになれること、それは「強さ」でもあると思うのです。
西澤朋子 (にしざわともこ)
PR会社「WORKING FOREVER」代表/PRプランナー。東京生まれ。食品メーカーで宣伝を担当した経験からPRに目覚める。国内・外資系PR会社を経て大手PR会社経験後に独立。広報部の立ち上げや広報担当者育成まで、企業の広報支援を幅広く行う。社長と話す、人と話す、企業と二人三脚で広報課題に取り組むことが信条。
www.workingforever100years.jp/
Instagram @working_forever