週末の過ごし方で、来週の気分はきっと変わる。だからこそ、観る映画にはちょっとこだわりたい。気分転換にも、インスピレーションにもなる一本をピックアップ。今回は、6月12日(金)公開の『エレノアってグレイト。』をお届け!
“嘘”から始まるあたたかくパワフルな友情

“嘘”は、たいていは良くないものだ。――そのはずなのに、この映画ではその前提が少し揺らぐ。
映画『エレノアってグレイト。』は、スカーレット・ヨハンソンの初監督作。“悲しみや苦しみとむきあうこと”や“記憶を継ぐこと”にまっすぐ向き合った、芯のある一本。

物語の始まりは心細い。親友を亡くし、心にぽっかりと穴が空いたまま故郷のニューヨークに戻ってきたエレノア。家族とも距離を感じるなか、彼女はふとしたきっかけでホロコースト生存者の集まりに迷い込み、同じくホロコーストの生存者である“親友の過去”をつい自分の体験のように語ってしまう。普通に考えたら、完全にアウトなのだけれど……この嘘は、人と人をつないでしまう。母を亡くしたばかりのニナは、その言葉に救われ、ふたりのあいだには奇妙でまっすぐな友情が芽生えていく。
この関係がすごくいい。正しいかどうかは脇に置いて、“必要だった”から始まった関係。いびつだけれど、あたたかい。人はときどき、自分を救ってくれる場所にたどり着いてしまうのかもしれない。年齢も背景も違うふたりが、自分の孤独を持ち寄るようにして近づいていく距離感は、愛おしく、少しだけ羨ましくなる。

そしてこの映画がもう一歩踏み込むのは、“語ることの責任”。物語の背景にあるホロコーストの記憶は、決して消えてはいけない。本作に登場するホロコーストの過去を持つエレノアの親友・ベッシーを演じたリタ・ゾーハー自身もホロコースト生存者であり、そのほかにも非職業俳優のホロコースト生存者たちが参加。彼女らの存在が映画に“終わらない重み”を与えている。
だからこそ、この作品は不思議なバランスで成り立っている。ユーモアがあって、どこか可笑しい。でも同時に、「語り続けなければならない記憶」が確かにそこにある。スカーレットがこの作品をユダヤ人の祖母に捧げたという背景も含めて、ここには“誰かの人生を語り継ぐこと”へのまなざしがある。
「他者との繋がりは、悲しみを癒やすための最も強⼒な⼿段」とコメントを残すスカーレットは、その悲しみを正面から描き、癒やしへと昇華させる。エレノアの嘘は決して褒められるものではない――けれど、誰かの物語を消さずに繋いだことに心からの拍手を贈りたい。
【6月12日(金)公開】映画『エレノアってグレイト。』

監督/スカーレット・ヨハンソン
脚本/トリー・ケイメン
出演/ジューン・スキッブ、エリン・ケリーマン、ジェシカ・ヘクト、リタ・ゾーハー、キウェテル・イジョフォー
※新宿バルト9ほか全国順次公開
eleanor2026.com

