週末の過ごし方で、来週の気分はきっと変わる。だからこそ、観る映画にはちょっとこだわりたい。気分転換にも、インスピレーションにもなる一本をピックアップ。今回は、5月29日(金)公開の『箱の中の羊』をお届け!
単なるSFではない、家族の意味

是枝裕和監督の最新作『箱の中の羊』は、「死者をテクノロジーで蘇らせる」という大胆な設定を入口にしながら、「大事な人を失ったあと、人はどう生きていくのか」という問いに向き合った一本。
物語は、息子を亡くした夫婦が、その子の姿をしたヒューマノイドを迎え入れるところから始まる。再び「おかえり」と言える日常を得たことで、家族の時間は動き出す。しかしそれは、過去の喪失が癒えたことを意味しない。むしろ、かつての記憶と現在の存在が織りなす微妙なズレが、夫婦それぞれの心の深層を浮かび上がらせていく。

特に印象的なのは、同じ喪失を抱えながらも異なる態度を示す夫婦の対比。息子の不在を埋めようとする母(役・綾瀬はるか)と、どこか距離を取り続ける父(役・大悟)。息子と同じ姿・個性を持つヒューマノイドに愛情を募らせる母、そして愛おしさを感じるたび「たまごっち」や「ルンバ」と自身に言い聞かせる父。どちらの感情も正しいとも誤りとも断じられないからこそ、観る者はその揺らぎに共振していく。喪失の痛みは共有できても、その乗り越え方は決して一様ではないのだ。
是枝作品に通底するのは、「家族」という制度や形の揺らぎを見つめる視線。本作でもその眼差しは変わらない。ただし今回は、AIという現代的なモチーフを介在させることで、家族の意味はより複雑に問い直される。ヒューマノイドは亡き子の代替なのか、それとも全く別の存在なのか――。

また、作品が提示するのはテクノロジーへの単純な肯定でも否定でもない。むしろ、技術によって「死者とともに生きる」可能性が開かれたとき、人間はどのように別れを引き受けるのかという問いが際立つ。ヒューマノイドと過ごす時間は、癒やしであると同時に、新たな葛藤の源にもなる。その両義性こそが、本作を単なるSFに終わらせない理由だろう。
タイトルに込められた「箱の中の羊」という寓話的イメージも特徴的。見えないものを想像する力、あるいは見えないからこそ成立する関係性。いま私たちが失いつつあるその感覚を、是枝監督は呼び覚ます。悲しみをなかったことにするのではなく、抱えたまま生きること。その複雑なプロセスを、優しさと鋭さを併せ持つ眼差しで描き出した本作は、テクノロジー時代の人間像を問い直す、衝撃に満ちている。
【5月29日公開】映画『箱の中の羊』

出演/綾瀬はるか 大悟(千鳥)
桒木里夢 清野菜名 寛一郎 ほか
監督・脚本・編集/是枝裕和
gaga.ne.jp/hakononakanohitsuji

