週末の過ごし方で、来週の気分はきっと変わる。だからこそ、観る映画にはちょっとこだわりたい。気分転換にも、インスピレーションにもなる一本をピックアップ。今回は、6月12日(金)公開の『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』をお届け!
出産後の不安定さや社会からの断絶をありありと映し出す

出産のあと、世界の手触りが少しずつ変わってしまう。
『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』が描くのは、そんな“言葉になる前の苦しさ”だ。ニューヨークを離れ、夫のジャクソン(役/ロバート・パティンソン)とともに田舎町へ移り住んだ作家のグレース(役/ジェニファー・ローレンス)は、出産をきっかけに執筆が止まり、孤独と重圧のなかで少しずつ心の均衡を失っていく。穏やかな景色に囲まれているはずなのに、彼女にとっての日常は、どこまでも息苦しい。社会とのつながりは遠のき、現実と幻想の境界はゆっくりと滲んでいく。
この映画の怖さは大きな事件が起きることではなく、ほんの小さな“ズレ”が積み重なっていくところにある。犬の鳴き声や虫の羽音、赤ちゃんを取り巻く生活音までもが、グレースには不快なノイズとして迫ってくる。その音のひとつひとつが、彼女の神経を逆撫でし、見ているこちらまで落ち着きを失わせる。

その中心にいるジェニファー・ローレンスの演技は凄まじい。感情を大きく見せるというより、追い詰められていく身体そのものを差し出すような、“むき出し”の体当たり演技。撮影当時、彼女自身も母であり、妊娠中だったことが、この役の感覚にどこかで重なっていたという事実も含めて、その痛いほどの生々しさに目を逸らせない。
一方で、ロバート・パティンソンもまた絶妙。彼は彼なりにグレースを気遣っている。けれど、決定的なところで気づいていない。優しさのつもりがほんの少しズレていて、やることなすこと、どこか噛み合わない。その“惜しさ”が、夫婦のあいだにじわじわと亀裂を走らせていく。悪人ではないのに、寄り添いきれない。そのリアルさが苦い。

初上映となったカンヌ国際映画祭では、上映後に9分間のスタンディングオベーションが巻き起こったという。熱狂というよりは、ただならないものに“触れてしまった”という沈黙ごと抱えた拍手だったのではないかと思う。完璧じゃない感情や、言葉にできない違和感。そのどれかに覚えがあるなら、この物語は決して他人事ではいられない。
【6月12日(金)公開】映画『DIE MY LOVE/ダイ・マイ・ラブ』

出演/ジェニファー・ローレンス、ロバート・パティンソン
監督/リン・ラムジー
原作/アリアナ・ハルウィッチ 『Die, My Love』
配給/クロックワークス
klockworx.com/diemylove

