3月の下旬になりますが、知人を通して知った、野生の菌だけでパン作りをしているというベーカリー 「タルマーリー」を訪れて来ました。千葉県で開業し、より良い水とより良い天然麹菌を求め、豊かな自然環境で知られる鳥取県の智頭町に移転した、そんなこだわりのパンを食べてみたいという気持ちと、そんな自然のある町を訪れてみたいという衝動に駆られての旅。その一部をご紹介します。(料理研究家・フードコンサルタント/ブライデン陽子)
タルマーリーの歩み
⚫︎パン作りを追求して見えてきたこと
野生の菌によるパンづくりを追求し、麹菌採取に目覚めたというオーナーの渡邉さん。天然の麹菌採取を始め、見えないミクロの世界との交流を通し、より良い麹菌には、空気と水のきれいな自然環境と自然栽培米が必要であることに気づきます。
⚫︎菌のための環境づくり
しかしそんな自然環境を維持するためには、自らの力だけでなく地域全体の協力が必要であると、町役場に地域の自然環境と生産体制を整えていくための「地域内循環」を提案しました。今ではそんな努力が実り始め、地域内で生産される自然栽培原料を使うなど、目指している地域内循環へ一歩ずつ近づいています。
野生酵母で作るパンとビール
野生酵母パンと聞くとずっしりとしたハードブレッドを想像しがちですが、タルマーリーのパンはどちらかというと、もちもちふわふわとした食感をしています。でも噛めば噛むほど味わいが感じられ、食べ応えがちゃんとある。そんな出会ったことのない美味しさは、どこか優しく気分をほっこりさせてくれました。もう1つの目玉商品である野生の菌だけで発酵させたクラフトビールも、パン同様に複雑な奥深い味わいがあり、期待以上に楽しませてもらいました。
智頭町の魅力
面積の約93%が森林という豊かな自然と、宿場町の情緒が漂う古い町並みを残す智頭。ここでは現在、そんな自然を生かした持続可能なまちづくりに力を入れており、新規事業者や田舎で子育てをしたいという若い世代などの移住者が増え、国内外からの視察や研修が相次いでいます。新鮮な空気を吸いながらレンタサイクルでゆっくりと巡ってきましたが、見どころたっぷりの素敵な町でした。
パン作りから始まり、新しい形の地域内循環構築にも携わるというパン作りを超えたベーカリー。この地を訪れ、「パンを作れば作るほど、地域社会と環境が良くなっていく」というタルマーリーの目指すものが、より深く理解できた気がしました。
タルマーリー
自家製天然酵母パン&クラフトビール&カフェ。
鳥取県八頭郡智頭町智頭594番地
※JR智頭駅(大阪から特急で約2時間)から徒歩10分。
※4月から那岐店は製造に特化し、カフェ・販売は智頭店のみになりました。パンやビールが買える店舗、通販の情報は、ホームページをご覧ください。