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2024.11.10

今こそ観るべき舞台『太鼓たたいて笛ふいて』。大竹しのぶの覚悟とは?

劇作家 井上ひさし生誕90年に際し、こまつ座が最後に用意した演目『太鼓たたいて笛ふいて』が、紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで幕を開けた。物語の要、林芙美子を演じる大竹しのぶさんは「この芝居は、これから先もずっと上演すべき作品」と熱き想いを口にする。注目すべきこの舞台の見どころは?

「今この状況の世界だからこそ、多くの人に観て貰いたい」

大竹しのぶ舞台

物語は日中戦争が迫る1935年(昭和10年)から第二次大戦を経て、戦後1951年(昭和26年)までが描かれる。それは、自伝的小説『放浪記』でベストセラー作家となった林芙美子が、47歳という若さで急逝するまでの人生最後の16年間だ。

そこにあるのは、戦争へと向かいゆく不穏な日本、芙美子自身の執筆への行き詰まり。日中戦争が始まるや“時流に合わない”という理由で本の発禁処分を受け、生活に立ち込める暗雲。“戦さはもうかるという物語”を芙美子に吹き込み、彼女を従軍記者へと誘う怪しきプロデューサーの出現。――結果、芙美子は内閣情報部と陸軍部によりシンガポールやジャワ、ボルネオに派遣され、“太鼓たたいて笛ふいて”…自国の行いを正当化する記事を書く役目に身を投じる。

大竹しのぶ

そうして時局に踊らされ従軍記者となったものの、現地で戦争の“実態”を目の当たりにし驚愕する芙美子。敗戦後、絶望する庶民の悲哀を伝えていかねばと決意する彼女の変容に、観る者は強く心を揺さぶられる。

大竹さんは、本公演のプログラムに「この作品の芙美子は、戦争を美化し兵士を戦地に送り込んだ自分の行動は間違っていたと認め、責任を取ろうとする。井上ひさしさんが書いた芙美子の生き方や、言葉の一つ一つをきちんとお客様に伝えることが、私達の役目だと思います」とコメントを寄せている。

大竹しのぶ


今、同じ地球上で戦争が起こっていて、この瞬間も命の危険にさらされている人々がいるという事実。軍事侵攻、政権争い、災害、経済格差、差別…それぞれの立場でそれぞれが「笛や太鼓を鳴らしている」状況のなかで、自分は何を見て、どう捉え考えるべきか。その道しるべとなるのが本作なのだと、役者たちはその使命感をもって舞台に立っているのだ。

2002年の初演から芙美子を演じてきた大竹さんにとって、今回は5度目の舞台。新たに魅力的なキャストを迎え、東京公演に続く大阪、福岡、愛知、そして山形で、2024年ならではの林芙美子を魅せてくれる。劇場という同じ空間にいるからこそ感じ取れる熱量、気迫、息遣い、台詞に込められた想いをダイレクトに感じられる至福を味わってほしい。

大竹しのぶ
〈左から〉天野はな、近藤公園、福井晶一、大竹しのぶ、高田聖子、土屋佑壱

平和を愛した井上ひさし氏の意思を継ぐこまつ座。井上氏が「林芙美子」の生きざまを通して伝えたかったメッセージを、私たちはしかと受け止めたい。

PHOTO=〈公式舞台写真〉宮川舞子

TEXT=GINGER編集部

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